新たな旅立ちと
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「……医療ジンテクスというのですか。これでこのわずかな期間に……」
カラハ・シャールから旅立ってからの経緯を話すとローエンは髭をいじりながらミラの足に装着されているジンテクスに目をやった。
「ねえ、ローエン。しばらくこっちにいるの?」
一通りの説明を終えた後、これからの動向を確認する、と彼は少し表情を暗くした。
「ドロッセルお嬢様から、しばらく休むよう言いつけられました。エリーゼさんがミラさんに会いたいとあまりに申されるもので」
「ぼくたちのせいじゃないぞー。この頃ローエン君がボーッしてたからじゃないかー」
ル・ロンドへ来た理由を最もらしく言ったがすぐさまティポがそう言うと、ローエンは言葉を詰まらせた。
「らしくないな?」
「いえいえ。私も悩みはいっぱいありますよ?……少し、考えるところがありましてね……」
悩み、か。クレインやドロッセルのことなのか、それとも別のことなのか。なんとなくだがそれもわからぬでもないが、何の確信もない。
「ふむ。ゆっくりと話を聞いてやりたいところだが……」
「僕たち、明日にでもル・ロンドを発つつもりなんだ」
「すまんな」
眉を少し寄せた言葉を濁すミラにジュードと私が後を続ければ、ミラは目を見開いて驚いた。
「ジュード…フィリン、君たちは…」
「いい加減わかるよ」
「私はキミについて行くと言ったはずだ」
そろそろミラは旅立つだろうとジュードと話していた。一日でも早く歩けるようにしていたミラだ。そんな彼女が今日は一人で手を借りずに歩きたいと言い出したのだ、こんなに簡単に理解できないものはない。
「そんな病み上がりの体で……イル・ファンに一体何があるのですか?」
カラハ・シャールを訪れたときといい今といい、何処にイル・ファンに急がなければならない理由があるのか。ガンダラ要塞でもナハティガルに剣を向けたこともその疑問の一つだろう。
「クルスニクの槍と名付けられた兵器だ。あれだけは…あれがある限り、精霊も人も破滅へと向かってしまう」
それをラ・シュガルの王様が作ったのかと問えばミラは黙って頷いた。
「イル・ファンを目指すということはガンダラ要塞へ向かうということです。あなたをあんな目に遭わせた場所……ミラさん、恐ろしくはないんですか」
足が全く動かなくなる程の大怪我を追った場所を抜けなければ目的地には辿り着くことは出来ない。トラウマになってもおかしくはないと言いたいのだろう。
「そうだな…私にとって恐怖があるとするならば、それは…使命を果たそうとする志の火がきえることだけだ」
簡単にハッキリと言いきったミラを誰が止められるだろうか。だから彼女は面白い。自身の口角がにぃっと上がるのを感じる。ティポがなんでミラ君がそんなに頑張らないといけないのさー?と首を傾げるがミラはまた揺るぎのない瞳を向けて、私はマクスウェルだからと言った。
「フィリンさんも……行かれるのですか」
「ふむ。ミラとミラのしようとしていることに興味がある」
今度は私へと視線を向けたローエン。クレインの一件があったから心配しているのだろう。
「それに、私の研究にも必要になる」
オールドラントでは音素が力の源。リーゼ・マクシアでは精霊が力の源だ。その違いを見つつ私の研究を進めるには精霊の主であるミラについて行くのが一番だと思った。この決意に揺るぎはない。
「心配してくれるのは嬉しいが、智に貪欲なのが私なのだよ」
あのままカラハ・シャールにいるのもまた一つの幸せだったのかもしれない。だがこの世界を知るために旅に出たのだ。やめると言うことは己の意志に反すること。それは私の信念ではない。
「旦那様もあなたのそう言うところに惹かれたのでしょうね」
「さあ、どうだろうね」
クレインの側にいるのは心地よかった。落ち着くのは確かだった。それでも旅に出た。理由もわからずリーゼ・マクシアに来てしまった私の唯一の目的だったから。知らぬ世界を知ると言うことを。
「さて、そろそろ戻るとするか」
あまり海風に当たりすぎても体に良くない。と言えば皆頷いた。ジュードとミラは治療院へ。私はレイアの実家である宿屋にいると言えば、エリーゼとローエンも泊まっていくという。
「今日は賑やかだね」
「そうだな」
きっとあの夫婦は大歓迎してくれるだろう。見ず知らずの私にあれだけ良くしてくれるのだから。あれが家族の雰囲気なのだろうな。どことなく羨ましい、と思う。そんな自分に小さく笑いながら帰路へと着く。