新たな旅立ちと
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「ミラがこんなに早く退院できるなんて。大先生もびっくりしたんじゃないかな」
「知らないよね。父さんとは全然話してないし」
私たちがフェルガナ鉱山へと精霊石を取り行ってから三週間が経った。さすがのミラも耐えかねて気を失うほどの医療ジンテクスの痛みにもだいぶ慣れてきて、体調も良くなりようやく退院が認められた。私はその間は彼女の治療を手伝いつつ、己がある意味目的としている研究について考察をしていた。ジュードもミラの治療を手伝ってはいたがディラックとの仲が悪化したせいか、見てる方が居づらいと思うことが多々あった。
「彼女は支度が済み次第来る」
ミラが一人で外へと出てくるのをジュードとレイアとともに待っていると、治療院からそのディラックが出てきた。そんな彼にジュードは、そうと素っ気ない返事だけをした。彼の用はそれだけではなかったようで、手に持っていた紙をすっと私たちの前へと突き出した。
「ジュード、こんなものが届いた。指名手配をされていたとはな…」
はぁと、溜息を吐く。遠い地で医療を学んでいたはずの息子が指名手配犯とされていれば溜息の一つも吐きたくなるか。
「別に迷惑かけてないでしょ」
「何をした?文面を見る限り、何かを強奪したとも読めるが?」
手配書を見てジュードが少しばかり顔を顰める。レイアはバッとジュードを見る。強奪……海停でのアレのことか。
「イバルにあの時渡していた何か……ひょっとして……」
「イバル…?」
ジュードも同じ事を思ったのか、視線を逸らして呟く。が、ジュードは何でもないと首を振る。確かにミラは何かをイバルに手渡しかが何を手渡したのか言わなかったし、それが何なのかは見た感じではよくわからなかった。
「それで何?ミラに文句がいいたいの?父さんはミラが嫌いみたいだし」
「ジュード。喧嘩腰でものを言うものではない」
これでは話が進まんな。どっちもどっちなのだが。ジュードにしてもディラックにしても言い方が喧嘩を売っているようなものだ。
「互いが一歩でも歩み寄る気がないのなら話すだけ時間の無駄だ」
「……フィリン」
時間を無駄にするものほど嫌いなものはない。バッサリといい捨ててやれば二人は黙り込み、レイアが不安げな声で私の名を口にする。
「君には関係のないことだ」
「まあそうだ。親を知らぬ私が偉そうな事は言えんな……ミラ」
じろりと私を睨むディラックだが、次の私の言葉に目を見開く。ジュードとレイアも。だが私の目は治療院から出てきたミラへと移動する。まだ覚束ない足取りで、途中膝を突くとジュードが側に駆け寄ろうとしたらそれをディラックが止めた。
「大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
一歩一歩ゆっくりと歩く彼女へと近寄る。あれから一ヶ月近く、自らの足で歩くことが出来なかったミラ。今自身の足で歩けることが嬉しいのか痛みを堪えながらも笑みを浮かべていた。
「海停でもいこっか」
「海風に当たるのもいいだろう」
ミラの歩調に合わせて海停へと向かう。普通なら五分そこらの距離を二十分近くかけて。
「さっきの手配書、何したの?イル・ファンで会ったんだよね?ミラとは何か関係あるの?」
海底をゆっくりとした歩調で散歩するミラを眺めているとレイアが口を開いた。先ほどの手配書が気になっていたのだろう。
「ミラ……ラ・シュガル軍の兵器を壊そうとしたんだ。黒匣っていうものが使われているから、そ
れから世界を守るのが自分の使命だって」
その声が聞こえたのか、少しだけ首をこちらを向けるミラ。私も視線だけを二人へと向ける。
「黒匣…」
ジュードの話を聞いてレイアが呟く。はっきりとは聞き取れない言葉。
「ジュード君~!」
ジュードが聞き返そうとしたときだった。彼の名を呼ぶ声がし、そちらへと振り向いた瞬間。何故か此処にいるはずがないティポがジュードに噛みついた……というかかぶりついた。
「ミラ!フィリン!」
更に奥から手を振りながら駆け寄ってくるエリーゼの姿。どうしてここに?と問うミラにエリーゼがえと、ねと微笑む。
「お見舞いに参りました」
彼女の代弁をするように答えたのはローエン。彼もまたここにいるはずではなかったのに。エリーゼが一人……ティポもいるがが……で来れる訳がないからそう意味では納得するが、ドロッセルの側を彼が離れるわけがないとも思っていた。さすがの私も困惑していれば、ローエンは柔らかい笑みをこちらに向けた。