父と子
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「さすがにもう襲ってはこないだろう」
攻防の末、魔物を穴へと落とすことに成功した。ミラを加えた私たちの攻撃に疲弊した魔物を自ら作った穴へと落とした。向こうもまた襲ってくる気力もないはずだ。
「ぐっ……全く……よくこんな物を考えてくれたな……」
剣を地面へと突き立てなんとか耐えるミラ。先ほどより脂汗の量が酷くなっている。
「後は街に戻るだけだ。車いすに戻るといい」
辛い痛みの中無理に立ち続ける必要はない。レイアが倒れていた車いすをミラの元にと持ってくるとさすがの彼女も耐えきれなかったのか、すまんと言って座り込む。
「ミラ、これを飲んでおくといい」
「これは?」
バッグの中から錠剤を一つミラへと手渡す。薬とはわかっているだろうが、何の薬かわからないからか訝しげな表情をされる。
「神経に聞くかはわからんが鎮痛剤だ。普通の鎮痛剤とは少々違う調合をしてある」
「違うって?」
これに反応したのは医学生であるジュード。医者を目指す彼としては気になるのかも知れないな。
「麻酔にも似た調合だ。調合の仕方を誤れば麻薬にもなる代物だ」
「ええっ!?」
悲鳴を上げたのはレイア。まあ、麻薬と聞いたら驚きはするだろうがな。
「そんなもの、どうやって……」
「オールドラントにいた時に研究所に駐在している医者と研究して作ったものだ」
麻酔が効きにくい者はたまにいる。手術をするときに痛がる者がいるからせめて痛みを柔らげられるものが作れないかと研究した。と言えば三人から、へぇ~と何ともいえない声が返ってきた。
「医療ジンテクスの効力が失われずに痛みが落ち着けばまずはよいだろう」
「ふむ。ありがたく頂く」
ジュードから水を受け取ったミラはその薬を飲む。五分もすれば効力が現れるはずだ、と説明すれば、わかったと頷いた。
「とは言え必ず効くという保証はない」
「それでも可能性があるのならば私としては助かる」
ミラがそこまで言うほどの痛みなのだろう。まだ付き合いが短いからミラのことは詳しくは知らぬがちょっとやそっとでは弱音を吐かないというのは知った。それでも医療ジンテクスを外さないのは少しでも痛みに耐えるためか。
「街へと戻るとするか。いろいろ覚悟を持ってな」
「覚悟?」
いつまでも鉱山にいても仕方ない。ミラの治療もあるから早く街へと戻らなくてはならない。が、私の覚悟という言葉の意味がわからない三人が同時に首を傾げる。
「医者に黙って患者と医療道具を持ち出したのだ、説教の一時間や二時間は覚悟せねばな」
クスクスと笑うとジュードとレイアの顔色が一気に悪くなった。親からの説教の怖さを思い出したのだろう。私にはあまりよくわからぬ感覚だが、まあそれは仕方ないことだろうな。
「おおおお母さんにも、バレてるかな…」
「あまり、考えたくないね」
二人はガタガタと震えてそれぞれ視線をどこかへと外す。二人の様子から言うとディラックよりレイアの母親の方が怖いようだ。私には人当たりの良い婦人に見えたが、一度顔を合わせただけだからその印象しかないのかもしれん。
「帰らないのならば置いていくぞ」
「ま、待って」
「置いてかないで!」
ミラの車いすをジュードから奪い来た道を戻ろうとすれば、ジュードとレイアは慌てて私らの後を追ってくる。ここに残される方が怖いようだ。本当に面白いな。
「ミラ、痛みは……あれ?」
「寝ちゃった?」
薬の効いているのか確認しようとジュードがミラの顔を覗き込めば、ミラは小さな寝息をたてて眠っていた。
「効いたのか痛みで気を失ったかだな」
「でも汗は掻いてないから薬が効いてるんじゃないかな」
診察をするようにミラの顔や脈拍を確認するジュード。先ほどまで掻いていた脂汗はすでに引いている。
「効くようならば薬に関してはディラックに報告しよう。同じような成分があれば作れるだろうしな」
「フィリンってばすごーい」
「医学が専門じゃないのに」
確かに専門ではない。この薬は医者と合同で作ったものだから私だけの力ではないのだがな。
「それでもすごいよ」
「興味とやる気があれば何とかなるものだよ」
「か、簡単に言うね」
何をやるにもそれがなければ出来ぬと思うのだが。それも一つの個人的な感覚なのかもしれんな。まあ、私が特殊なのだというのは間違いないだろうが。そんな談笑をしながらル・ロンドへと戻った。
((ああ、興味が尽きないな))