父と子
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「キミらは何をやっているんだい?」
私がそっと部屋へ入るとジュードとレイアがミラの足に何かを付けていた。ミラに痛くないかと問うが何も感じないとミラが首を横に振ったところで私が声を掛ける。それに驚いたのかジュードとレイアは肩を大きく揺らし、互いに大声を出しそうになるのを互いの手で口を塞いで難を凌ぐ。ミラに至ってはただ目を大きく開けて私を見るだけで声すら上げなかった。
「フィリン!お、驚かさないでよ!」
「じゅ、寿命が縮まったよー」
驚いてはいるもののあくまで小声の二人。はぁーっと息を吐く姿は少々面白い。
「ミラに医療ジンテクスを施術していたのか?」
「うん。でも上手くいかなくて」
がっくりと肩を落とすジュード。一方ミラは何か思い立ったように上半身を起こし、足に付けられた石を手に取りそれを見る。
「この石からはマナを感じない。君の父親が医療ジンテクスには精霊の化石を使うと言っていた」
「精霊の化石って!?本当に存在してるの!?」
「そっか。カルテにあった特殊な石って、精霊の化石だったんだ……」
話がよく見えなくて首を傾げた私にレイアが昔、医療ジンテクスを受けた患者のカルテのことを教えてくれた。精霊の化石は採掘してすぐに使わなければマナを失うという。
「あれ……でも、フェルガナ鉱山で昔、採れたって聞いたことがあるような……」
口元に人差し指を押きながら、うーんと思い出したように言うレイアにジュードは本当!?と声を上げる。
「ちょ、もー静かに。お父さんから聞いたことあるだけ」
と付け加える。それを聞いてジュードはミラへと向き直る。
「ミラ。鉱山へ一緒に行く必要があるけど……」
「世話をかけるが……頼めるか?」
諦めるつもりはない。簡単に諦めるつもりがないから這ってでもイル・ファンへ向かおうとしたのだ、痛みくらいで諦めるわけはないだろう。
「私は準備があるから。じゃ、街の入り口で」
と、レイアは部屋から出ていった。まあ、街の外に出るならそれなりの準備はしておかねばならんだろう。
「ジュード。ミラを車いすに乗せるぞ」
「フィリンも来てくれるの?」
おや、私だけ除け者か?と意地悪く笑えば、二人は顔を見合わせ、ありがとうと言った。
「そう言えばフィリン。さっきまで何をしてたの?」
ジュードが飛び出した後、私は追い掛けなかった。ジュードとレイアがカルテを漁って医療ジンテクスを見つけてミラの部屋へと行くまでの間、結構な時間はあった。
「ああ、キミの父親と話をしてた」
「父さんと?」
意外そうに目を見開いて驚くジュード。ミラも気になるのかこちらへと視線を向ける。
「前に来たことがあると言っただろう?彼とも顔を見合わせている」
あとレイアの両親もな。と付け加えれば、ジュードはポカンと口を開ける。
「向こうも私とジュードが一緒にいて驚いているようだった」
「じ、じゃあ。フィリンは僕と初めて会ったときから知ってたの?」
くすくすと笑う私に、ジュードは更に聞いてくる。何だかんだと気になるという事か。
「ファミリーネームを聞いてすぐにわかった」
さも当然のように言えば、そうならそうと言ってよと肩を落とされた。
「あははは。ただ、ディラックとは随分違うものだから驚いたがな」
彼の息子ならばかなりの堅物かと思ったのだが、全く正反対のお人好しの少年だった。まあ息子がいたという事は聞いてはいなかったが。
「僕は父さんとフィリンが知り合いだったほうが驚きだよ」
「それは偶然だ」
何のようもなく治療院へと行く用事もない。街を散策している途中で治療院から出てきたレイアとぶつかり軽く怪我をしてしまい、その時にディラックに世話になったと言うと、レイアったら。とまた肩を落とす。
「いや、おかげでいい時間を過ごせたよ」
そのあと茶までご馳走になったしな。随分久し振りにゆっくりとした時間を過ごした。この街はそう言う時間が流れていてよい。
「この街の雰囲気は好きだよ」
「ふむ。私も気に入った」
車いすを押しながら街の入り口に向かえば、すでに準備を終えたらしいレイアがぶんぶんと手を振っていた。
「まるでピクニックだな」
彼女を見ていると危険を冒してまで街の外に出るようには思えんな、と笑えばミラは笑ったもののジュードだけは溜息を吐いた。