父と子
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「患者は足の怪我だけでなく、合併症による免疫力低下も著しい。なぜ無理をさせた」
ジュードの母親が去ってまもなく、ミラを診察をしていたディラックに呼ばれ診察室へと入った。元々威圧的な表情だというのに、今は更に輪を掛けたように厳しいものだった。黙っているジュードに答えなさい。とさらに威圧的な態度をすればジュードはやっとの声ですみま…せんと謝罪の言葉だけ口にした。
「彼女には体の状態を告知したのか?」
「話したよ……父さんなら治せるかもしれないって」
ジロリと睨む目に怯みながらもそう答えたジュードにディラックは話にならん!と首を振る。互いに言いたいことはわかるが、ジュードの気持ちもわからぬでもない。出来る出来ないの有無はともかくとして。
「いいか?ジュード。医療ジンテクスは、お前が思うほど生易しい施術ではないんだ。あきらめなさい」
諦めろと言われて諦める彼らではないのはこの数日でよくわかった。でもと食い下がるジュードにディラックは彼の名前を叫んで諫める。ジュードの顔が泣きそうに歪んだ後、キッとディラックを睨みつける。拳も思いきり握りしめ。
「それが、父さんの答えなんだね」
「ジュード!?」
よくわかったよ、とジュードは診察室を飛び出した。その姿を見送り、私はディラックへと向き直る。
「いいのかい?」
「君には関係のないことだ」
わざとらしい息を吐いてやれば帰ってきた返事は冷たいものだった。
「フォローするつもりはないが、あの状態で生きていた方が奇跡だ」
彼があの場にいたのならもう少し違う状態だったのかもしれぬ。だが、あれを目の前で目撃して無事を確信できた者などいないだろう。
「キミが優秀な医者なのはわかる。が、ジュードがまだ未熟な医学生だというのもわかっているな?大怪我をしたミラに一生懸命、治癒術を施していたのは他でもないジュードだ」
傷が残らなかっただけでも大したものだと私は思う。少々厳しいくらいの方が人は成長するものだが、彼の場合はジュードを否定しているところが見えなくもない。
「君は息子を随分と過大評価をしているようだな。それと君はジュードとどういう関係だ?」
前に出会った時は私は一人だった。正確には二人だが、アルヴィンと一緒に出会った訳ではない。
気になったとしてもおかしくはないだろう。それが大事な息子ならなおさらだろう。
「道中というか樹海で出会った。ミラの他にもいたのだが、私は彼らに興味を持ったから今も一緒にいる」
何も知らぬのでは少々哀れに思い、私がジュードらと出会ったときからのことを話してやる。それをディラックは黙って聞いていた。
「ジュードがあんなお人好しになったのはキミら夫婦を見てだろうな」
「どういうことだ?」
今日初めて親子の絵を見たが、それだけで十分にわかる。あのミラでさえ理解しただろう。
「医者であるキミらは当然いつでも忙しい。それだけの医師である両親を誇りに思うと同時に寂しくも思っただろう。だがそれと同時に何を言っても聞いてもらえないと悟ったのだ」
両親がいたらいたで厄介なものなのだな。と思わず溜息を吐いてしまった。私の呟きにディラックが目を見開いたがそこは放置しよう。
「自分が放って置かれた分、他人を放っておくことが出来ないのだろう」
無意識に自分と同じ境遇の人間を放っておけなくなってしまい、人が良すぎるほど手助けしてしまうのだろう。
「親子とは不思議なものだな。羨ましいとは思えぬが、興味は尽きぬ」
「君は……親がいないのか……?」
ふむふむと頷いていると、ハッキリとした物言いのイメージのある彼が、少々口ごもった風に言う。
「生きてはいる。俗に言う捨て子というやつだ」
だからといって不便はしていないと笑えば、彼は複雑そうな表情を浮かべる。この話をすると皆、この表情になるから面倒くさい。
「私は今の生活に満足している。キミが気にする必要などない」
智を求める私にとって最高の環境で勉学に励めたのは願ってもないことだった。今も別世界という興味が尽きないのがよい。これは他の誰にわからなくても、私はこれでよい。
「……君には、色々考えさせられるな」
「十人十色。考えなど皆違って当たり前なのだよ」
そんな事もわからぬではなかろう?と彼の目を見て言えば、彼は押し黙ってしまった。わかっていても、というところか。
「悩むことは悪いことではないよ」
ひらひらと手を振って診察室を後にする。さてとジュードはどこか?といっても思い当たる節は一つしか思い浮かばず、私はそこへと足を向けた。