父と子
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「うそーっ?!」
と、 私らの目の前を疾走していった車いすを押していた少年が手を離すと車いすに乗っていた少女はそれと共に海へと飛んでいった……もとい落ちていった。小さく息を吐く私の隣でミラを背負ったジュードの表情が呆れきったものだったのはたぶん見間違いではないだろう。
「ごめんなさい…だ、大丈夫でした……か?」
なんとか這い上がってきた少女はびしょ濡れのまま頭を下げた。ただ下げた相手の顔を見て、目と口を開けたまま惚けている。
「レイア……ただいま」
クスッと笑うジュード。まあ彼の故郷もル・ロンドと聞いてそうではないかとは思っていたが。
「キミは相変わらずでなんだか安心するな」
「ジュード?!フィリン?!え、ええ!何してるの?!」
ジュードの顔を見ただけで驚いているのに、私までも声をかければ彼女は私とジュードの顔を交互に見て驚きの声を上げる。レイアこそ、とジュードの問いに今度は慌てた表情に変わる。
「あ、あれはこの子たちがかけっこで競争したいっていうから、私を押してハンデつけないと勝負にならないと思って……」
「レイアが一番楽しんで見えたけど」
ジュードの指摘に、うっと言葉を詰まらせる。目を泳がし、誤魔化すかのように私とミラを見る。
「そ、それでさ…ジュードは何してるの?それにフィリンも一緒だなんて……」
少々聞きづらそうに視線をあちらこちらに向ける。唐突に彼が戻ってくれば驚いても仕方なかろう。しかも見知らぬ女を連れてなら尚更。
「知り合いか、ジュード、フィリン?」
「その、幼なじみなんだ。えっと、今背負ってるのがミラで……フィリンはその……何て言えばいいのかな……」
よろしくと二人が挨拶を交わすと、三人が私を見る。まあそれぞれがそれぞれの疑問を持つのは当たり前だろう。
「それよりフィリンはどうしてレイアを知ってるの?」
「イル・ファンに向かう途中船が故障してな」
その時にこのル・ロンドに立ち寄った際に知り合ったと説明する。それも随分前にも思えるが、実は大して時間は経っていないのだから面白い。
「え、ちょっと、その彼女の足…!……大至急、大先生に連絡お願い!患者さんが来るって!」
ミラの足を見たレイアがその様子に驚きを表す。グルグルに包帯を巻かれ、ジュードに背負われていれば不思議には思うだろう。レイアに連絡を頼まれた子供たちは急いで街の方へと走っていった。
「家に帰るんでしょっ?私も行く。これ使って」
さっきまでレイアが乗っていた車いすにミラを乗せる。ジュードが車いすを押し、街へと私たちも移動する。さて、私の顔を見たら彼はなんて言うだろうか。まず訝しげな表情をされるだろうな。もくしは溜息を吐かれるか?何にしても楽しみだな。
「おおジュード!首都はどうだった?楽しくやってたのか?」
寄り道せず治療院まで行き中に入れば、診察待ちだと思われる患者が複数いた。皆、ジュードの顔を見るなり表情を変え、笑って出迎える。少し騒がしくなった廊下に白衣を着た女性が現れた。
「先生、診察はまだかい?」
「ごめんなさい。みなさん、急患がいらしたので続きは午後の診察に」
「ごめんね、みんな!またあとでねー!」
ぶんぶんと手を振って患者を見送るレイア。病院内だというのに元気なものだ。レイアから元気を取るもおかしな話だがな。
「ジュード、彼女をこちらへ」
女性、ジュードの母親に促され、車いすを診察室へと向かわせる。中に入れば、ジュードの父親であるディラックがいた。彼はジュードの顔を見てもピクリともしなかったが、彼の後ろから私も入ってくれば少しだが目を見開いた。ミラを彼に任せ私たちは廊下で待つことにした。
「ゆっくりでいいのよ」
何があったのか話してくれるかという母の問いにジュードは頷き、えっとね、最初は…と話し始めたときだった。乱暴なノックをした後に治療院へと入ってきた男が急患を知らせた。彼女はジュードに軽く謝罪をして治療用のバッグを持って去って行ってしまった。
「え、そんな待ってよ!おばさん!」
レイアの言葉など聞かずその扉は容赦なく閉じられた。ジュードへと視線を向ければ諦めたかのような笑み。少し、彼がお人好しになったのがわかった気がする。
「泣きべそ、もうかかないんだね」
「なんだよ、それ。昔からほとんど泣いたことないよ」
レイアが小さく笑いながら言えば、ジュードは顔を赤くする。幼なじみか……やはりそう言う関係は良いものだと改めて認識させられた。