騒がしい出港
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ル・ロンドの街に港はあるから魔物の心配とかはしなくていいからね」
船が出港して暫し、ジュードが私らにお茶を入れながらそう言った。
「そうなのか?」
「うん。元々が小さな島だから」
海停を造るほどじゃないよ、と。街に直接港があった方が楽だと思うが、大体の場所がそれでは逆に不便なのだろう。私がいた街も生まれ故郷以外は港と街は離れていたしな。
「フィリン。ありがとう」
「何のことだ?」
唐突に礼を述べられ思わず首を傾げる。礼を言われる理由などわからずにいれば、ごめんごめんと謝る。
「フィリンが来てくれて心強くて。戦闘にしても判断にしても、フィリンなら助かるって思って」
「ふむ、そうだな。私も心強い」
にっこりと笑うジュードは可愛らしいと思ってしまったがそこは取り敢えず置いておこう。ジュードに言葉にミラも同意する。
「言った通り、私は私の目的がある。それを果たすにはミラの側にいるのが一番だと思ったからだ」
それに変わりはない。と入れてもらったお茶を啜る。
「本当にその目的とやらは明確ではないのか?」
先ほどとは変わって声のトーンを落とすミラ。それについてはジュードも同意なのか、ジッと私を見る。
「私はただ知らぬことを知りたいだけだ。ミラの側にいれば、ただ世界を旅しているだけで知れるもの、書を読み尽くせば知れるもの以外の、本当の世界を知れると思っただけだ。上辺だけの世界など興味はない」
まだ誰も知らぬ未知なるものを知りたい。このリーゼ・マクシアという世界は実に興味深い。私の世界にないものが多く存在している。そして、彼女は普通に暮らしていては誰も知り得ぬ真実の元で動いている。それを興味持たぬして何に興味を持てばよいというのだろうか。
「キミらについて行き手を貸すのはその為の一つだ」
それで納得できぬなら致し方ない。勝手に後ろからついて行くだけだ。そう言うと何故かミラは急に笑い出した。彼女が笑い出したことに一番驚いたのは、どうやらジュードの方らしい。
「ミ、ミラ?」
「お前の言葉は嘘偽りがなくていいな。こんな理由、フィリンでなかったら信用など出来ん」
けして褒め言葉ではないな。それはそれで構わぬが。
「フィリンって不思議だよね」
「そうか?……まぁよく言われるが」
そのせいか人付き合いはあまり良くはない。それ以前に私を妬む者が多い。ベルケンドの研究所へは半ばコネで入ったようなもの。博士号はきちんと実力で取ったものだが。十代の小娘に負けるのが悔しいのだろう。
「私は媚びを売られるのは好きではない。己を持たぬ者など興味はない」
ジュードもミラも己を持っている。人が善すぎて放っておけないのも己を持っている証拠。ミラのように使命を優先していても、その使命に従うと決めたのは己自身。それが死に繋がるかもしれないという危険も承知している。現に足の動かぬ今でも前に進むことを止めないのだからそう言わざる得ない。
「僕と年が変わんないのに、凄いや」
「私からすればジュードも十分凄いさ」
苦笑いを浮かべるジュードに私は首を振る。この少年は意外と自分をわかっていない。自分がどれだけ凄い人間なのかを。いや、己自身だからわからぬのだろうが。
「困っている人の為とは言え、己の生活を犠牲してここまでは出来んよ」
私のように元から行く宛のないものならともかく、医者になるために勉学していたというのに指名手配されるなど。そうなるつもりはなかったとしてもだ。ミラを捕らえて差し出せば助かるかもしれぬのに。足の動かなくなったミラのために動けるのだから十分だろう。
「僕にもよくわかんないけど……でもそうしたいと思ったから」
「それでもだよ。人は皆同じ生き方など出来ない。キミはキミの思うとおりにすればいい」
私がそう口にするとジュードとミラは顔を見合わせた後、クスクスと笑い出した。
「それ、ミラにも言われたんだ」
僕が迷っていたときにミラが言ったんだ、と。そんなつもりはなかったのだが、そう言うこともあるのか。
「人生とは難しいものだな」
「……フィリン。年寄りみたいだよ」
やれやれと肩を竦めれば、ジュードはガクッと肩を落とした。ミラに至っては何故かツボに入ったのか大笑いしている。
((さて、こんな再会に彼は何と言うか))