出会いと別れの街
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「ふむ。よく寝たな」
目を覚ませばベッドの上だった。眠気に負けて彼の膝の上で眠ってしまったのは覚えている。投獄されているわけではなく普通の……とはいえ私の部屋よりは広い……に寝かされてるのには少々驚いた。服は、上着とスカーフは脱がされていてブーツはサイドテーブルの前に置いてあり、バッグはそのサイドテーブルの上。
「入るわよ」
コンコンっとノックの後に入ってきたのは金色の髪を右に結った少女。髪と目の色からして彼の親族か。
「起きたのね」
「ああ、今な」
私の顔を見るなりぱぁっと明るい笑顔を浮かべて部屋の中へと入ってくる。
「気分は?痛いところとか?あ!私はドロッセル。ドロッセル・K・シャールよ」
「私はファリンシア・アラングラ。フィリンでよい。特に不快なところはないよ」
ノエルに似てなくもない。と思った。笑顔気柔らかさや雰囲気とか。
「お兄様があなたを連れてきたときは驚いたわ」
女の子を抱えて帰ってくるなんて初めてだわ。と感情豊かな表情を浮かべる。
「そうか?そう言えば彼は?」
「下にいるわ。夕食の準備ができたから呼びにのよ」
さすがに男性に呼びに行かせるわけにはいかないもの!とこれまた元気に言う。物静かなイメージなクレインとは真逆のようだな。
「ここはキミ達の屋敷かい」
「ええ」
スカーフは付けずに上着を羽織る。そしてブーツを履き、ドロッセルの側へと行く。警戒を見せないのは彼から何も聞いていないのか?それとも聞いているからどうだということなのか。まあどちらでもいいが。
「フィリンは何処から来たの?」
「イル・ファンだが……クレインから何も聞いていないのか?」
逆に質問し返せばドロッセルは首を振った。ただ行き倒れになっているところを助けたとだけしか聞いていないと。ますますわからない。馬車の中ではあれだけ探っていた割には、だが……妹には知られたくないのか。それについても後で問いただせばよいだろう。
「私、変なこと言った?」
「……いや」
食事の席で聞くつもりなのだろう。ならばそこで話せばいい。話すと言うほどのことは何も話していないのだから。
「お兄様。フィリンが目を覚ましましたわ」
ドロッセルに案内された部屋にはすでにクレインとローエンがいた。中央のテーブルには数々の料理が。久々のちゃんとした料理に胃が空腹を訴え始める。
「よかった。体調の方は」
「どうやら快調のようだ」
ぽんっと腹を人叩きすればクレインはローエンと顔を見合わせて微笑む。餓死寸前の人間を拾ったのだからそれなりに心配するか……どうかはともかく。
「どうぞ」
「すまないな」
ローエンに席を勧められ腰を下ろす。近くに来るといい匂いが漂ってきて食欲をそそる。普段食にこだわりはないのだが、人間限界を超えるとがっついてでも食したくなるものだな。
「どうぞお食べ下さい」
「遠慮せず頂くとするよ」
遠慮して食べずにまた倒れても世話ない。ならば食したほうがいい。礼はまた後で考えるとしてな。どの道、何も無しに返してもらえるわけもなかろうな。何にしても体力を回復せねば話にならん。
「そういえば、クレイン」
「なんですか?」
手前にあるサラダから手を伸ばし口にする。柑橘系のあっさりしたドレッシングが美味い。空っぽの胃にはちょうどいい。
「運んでもらったようで悪かった。あと膝を借りた礼もまだだった、ありがとう」
「気にしないでください」
全く気づかないくらい爆睡したのはいつ以来か。幼い頃、誰が一番起きていられるかとノエルとギンジと競って以来だからもう十年近いか。
「食事は口に合う?」
「ああ。久しぶりにこんな美味い物を食べたよ」
放っておくと簡易食しか食わぬから、こんな手の込んだ料理も本当にいつ以来だか。
「音素(フォニム)学の博士号をもらったとき以来だな」
確か知事宅に呼ばれてパーティーが開かれたときにこういったのを食べたな。それでもまだ一年程度だろうか。研究関連はともかくその辺りの記憶は曖昧だ。
「音素、学……?」
聞き慣れぬ言葉に怪訝表情を浮かべるクレインとローエン。ドロッセルは意味がわからぬと首を傾げる。
「きちんと説明すると言っただろ?」
フォークを置き口元を拭く。では、キミ達の知りたがっていたことを話そうか、と私は口を開いた。