騒がしい出港
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「待って!僕の父さんなら、ミラの足を治せるかもしれないんだ!」
「だとすれば!俺がお連れする。貴様など、俺から見れば巫子たる資格を持たない偽物だ!」
なんだか二人で言い争いを始めている。横目でミラを見ればだいぶイライラしてきているようだ。
「ミラ。私の背に乗れ」
このままでは船があっても出港してしまうと彼女の前で屈む。するとミラはまだ争っている二人を見て仕方ないと言った風に息を吐く。
「重いぞ」
「キミくらいなら平気だろ」
私より背の高いミラを背負う。確かに軽々とはいかないが船に乗るくらいまでは何とかなるだろう。私がミラを背負って船に向かおうとするとようやく二人はそれに気付いたらしくこちらへと近付いてくる。
「フィリン?」
「貴様!何を勝手ことをしている!」
困惑するジュードと更に怒りからか顔を真っ赤にするイバル。ここまで正反対な二人も珍しい。
「キミは面白いな。自分に正直だ」
「面白いだと!馬鹿にしているのか!!」
「フィリン、イバルをからかうな」
からかっているつもりはないのだが端から見るとそうなのか。イバルは真っ赤な顔で私を睨みつけている。どうやら怒りの対象は私に変わったらしい。
「私のことはあまり気にするな。自分でも自負しているが、人からよく変わっていると言われるからな」
私の言うことを一々気にしていたらキリがないぞ?と更に言葉を付け加えれば、ふんっ!と彼はそっぽを向く。
「そんなことより、イバル。巫子とは私の言い付けを破り、使命も守らぬ者ことだったか?」
私に背負われたままイバルに厳しい視線を向ければ、彼は小さく呻く。ミラは一度目を閉じ、一つ息を吐き、胸元から何か円盤状の何かを取り出し彼に差し出す。イバルは何の疑いなくそれを受け取り見た後、ミラを見る。
「お前にこれを託す。誰の手にも渡らぬよう守ってほしい」
「ミラ様…!」
それが何なのか私にもわからぬが彼女に頼られたことが嬉しかったのか、目に輝きが戻る。
「これは私の命と同じくらい大切なもの。四大の命もこれにかかっている」
「そのような重要な役目を……お任せ下さい!」
上手いな。彼女の言葉に偽りはないだろうが、怒りで一杯な彼を落ち着かせるには他に任を与えるのが一番なのだろう。それがどれだけ大事かを伝えればなおのこと。だがまあ、そんな簡単ではないのだろうな。
「そしてニ・アケリアに帰れ」
ハッキリと言われ思わず出たのか、は?と目を大きく開ける。まさか帰れと言われるとは思わなかったのか。
「お前の使命は、ニ・アケリアを守ること」
「ミ、ミラ様!しかしですね……」
さっきまでの威勢はどこに行ったのだろうか、縋るような目でミラを見る。が、背中の彼女からは冗談めいたという雰囲気は感じられない。
「何度も言わせるな」
ミラにそう言われては何も言えないのか、それとも言葉が出ないのか、あ、え…とか小さく呻くような声を出す。
「くっ……さっさとミラ様をお連れしろ…!だが忘れるな!本物の巫子は、この俺だと言うことを!」
となんだか負け犬の遠吠えのような声を上げてて去っていくイバル。ふむ、本当に面白い。今度はちゃんと話をしてみたいものだな。
「フィリン。代わるよ」
「そうか?」
埒が明かないと、私が背負っていたミラをジュードの背へと移動させる。さすがは男と言うべきか、私よりよろけることなく進んでいく。
「ならば舟券は私が買ってくる。ジュードはゆっくり来い」
少し小走りで船員の元へ行く。
「すまぬが、ル・ロンドまで三人分頼む」
人数分の賃金を払い舟券を受け取る。その行動が終わる頃にジュードとミラも船着き場までやってきた。そしてそのまま停船している船へと乗り込む。ミラが動けないというのを察してくれたのか、船員の一人が案内しますと、四人部屋へと連れて行ってくれた。
「すまんな、助かった」
扉を閉める前に礼を述べればその船員はどう致しまして、と微笑んで去っていった。イバルもああいうのを見習えばよいと思うのだが、よけいなお世話だろうか。
「二日もあれば着くか」
「フィリン、詳しいね」
特に何事もなければそれくらいで着くだろうと、言えばジュードとミラは目を丸くした。ル・ロンドは初めてではないのだが、そこは別に言わずとも良いだろうと勝手に判断し地図を見てそう思ったとだけ答えた。