その名の意味を知る
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おや、ジュード。おはよう」
控えめなノックの後に部屋へと入ってきたジュード。私がこの部屋で休んでいるとは思わなかったのか驚いていたが。
「フィリン。僕も行くよ」
「どういう風の吹き回しだい?」
昨日とは表情は変わっていた。何かを決意したような、そんな表情だった。
「僕の父さんが医者なんだ。もしかしたらって」
そういえばそうだったな。彼には言っていないが私はジュードの父親を知っている。彼ならば何か治療法を知っているかも知れない。
「そう言えば先生が言ってたよ」
「何のことだ?」
唐突に発せられた言葉に首を傾げる。
「フィリンの応急処置のおかげで、治療の方は思ったより楽だったって」
傷を清潔にして消毒してあったおかげで、治療時間が短縮できたという。
「少々医学にも心得があったからな」
興味で覚えた程度だがな、と付け加えて。
「フィリンはどうしてミラについて行こうと思ったの?」
「キミも質問が多いな」
キミも、と言う言葉にジュードが目を丸くする。何でもないと、首を振り質問に答えることにした。
「もしかしたら、私の目的に一番近いのはミラなのかも知れない。とはいえ、目的自体が明確ではないがな」
「意味がわかんないよ」
私もわからん。と返せばかっくりと肩を落とすジュード。私の知りたいと得たいと思う知識の最後に行き着くところがミラなのかも知れない。と曖昧ながら答えれば、ジュードは何となくわかるかも知れないと頷いた。彼女の不思議な何かに惹かれたのかも知れぬな。
「……ジュード?フィリン?」
奥からの声に私とジュードがそちらを向けば眠っていたミラが目を覚ました。手を貸してやり上半身を起こしてやる。
「僕の父さんが昔、今のミラみたいに足の動かなくなった患者さんを治療したことがあるんだ」
「本当か!?」
ミラと視線を合わせてにっこりと微笑むジュード。同じような患者を知っているというジュードの言葉にミラはすぐに食いついた。
「うん、本当だよ。だからミラ、一緒に僕の故郷ル・ロンドに行こう」
「何故だ?昨日はあれだけ反対していたというのに」
動かない足で旅なんて無謀だという風だったジュードを何が変えたのか。ミラもそれが不思議なようだ。だが当のジュードもよくわからないという。ただわかっているのはミラは歩けなくてもきっと無茶をしちゃうことだけと。
「ふふ……君は本当に……」
「お節介だよね」
ある種、この二人はこれで丁度いいのかも知れないな。ますます興味がわく。
「ならば私は先に用意をしてこよう。キミらは朝食を取ってるといい」
「フィリンは?」
私はすでに食していると言えば、いつの間にと顔をひきつられた。夜明けと共に目を覚ましたおかげで一足先にローエンに用意して貰ったと言えば納得された。
「ドロッセル」
「フィリン……話は聞いてるわ」
ジュードがすでに話を付けているという。これをどうぞとローエンからも旅の必需品を手渡された。
「そんな顔をするな。きちんと手紙も出す」
「ええ」
「フィリンも行っちゃうんです、ね」
スカートをぎゅっと掴んだエリーゼが涙目で見上げる。どうやら彼女はここに置いていくようだ。
「ああ。私の旅の目的は知識を得ること。その行き着くところがミラだと考えている」
そうだ、と思いだしバッグの中から本を一冊取り出す。
「興味があったら読んでみるといい。オールドラント…私の世界の本だが翻訳はしてある」
本当はクレインに見せるつもりだったもの。翻訳を完全には終わらせておらず直接手渡すことは出来なかったが、昨日の夜に全てを終えた。
「ありがとうです!」
「フィリン君、ありがとー!」
これで少しは退屈せぬだろう。まあ、エリーゼには少し難しいかも知れぬがな。
「ドロッセル、ローエン。すまんな。クレインの遺言を守れなくて」
「それはいいって言ったでしょ」
「はい。あなたは自由にと旦那様も願っていますよ」
彼らには本当に感謝しきれぬな。無念の内に死したクレインも。願わくば彼には生きて貰いたかった。今となっても叶わぬ願いだがな。
「しばし留守にする」
こうして私の真の旅が始まった。
((次に戻ったら旅の話をしよう))