その名の意味を知る
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「おかえりなさい」
屋敷に戻るとちょうど二階から降りてきたドロッセルと遭遇する。少し目が赤いのは彼との突然の別れのせいか。
「ドロッセル。話があるのだが…」
「ちょうどお茶にしようと思ってたの」
私からの話が何なのか察しているのか、それとも一人でいたくないのか。彼女に誘われるがままに席へと着く。元々そのつもりだったのか、すぐにローエンがティーセットをテーブルへと置き、早々と去っていった。
「まずはすまなかったな……クレインを助けられなかった」
「ううん、いいの。フィリンだってお兄さまを助けるために手を怪我したのでしょ?」
そっと私の手を取り、うっすら残る傷跡を撫でる。こんなもの、けして名誉の負傷などとは言えない。むしろ戒めとなるだろう。
「クレインから最後の言葉を預かった」
もしかしたらすでにローエンから聞いているかも知れないか、それでも私の口から伝えねばならない。そしてそれの希望に添うできないことを。
「フィリンはフィリンのしたいことをして」
私は大丈夫よ。と気丈に振る舞う彼女に少しばかり心が痛む。
「クレインからキミのことを頼まれたばかりだというのにな」
「ふふふ。私のことを気に掛けるなんて、フィリンらしくないわ」
入れ立てのお茶をひと啜りしドロッセルを見れば、彼女は口元に手を当ててクスクスと笑う。気のせいでなければかなり酷いことを言われたような気もするが。
「元々、世界中を旅をしたかったんでしょ?」
「それは、そうだが……」
確かにそれが目的なのだが。ふむ、ここしばらくいろんな事がありすぎて私らしくなくなっているな。それを他人に言われて気づかされるとは、私もまだまだだな。
「ところでミラの様子はどうだ?」
私がアルヴィンの元に向かったときはまだ治療中だった。かなり酷い怪我だったからなかなか完治しないのは致し方ないだろう。私がそれを問うとドロッセルは表情を暗くし俯いた。
「……動かないの」
ようやく口を開いたドロッセルから放たれた言葉。その意味がわからず私は首を傾げる。彼女の次の言葉を待つしかなく、黙って待つ。
「ミラの足……動かないの。何も感じないって」
足が動かない。何も感じないという事は神経系をやられたということか。譜術を用いて爆破を最小限に押さえたとは言え、あれだけの爆発だ。命があっただけでもマシと思わなければならないか。
「そうか」
カップに残ったお茶を一気に飲み干す。そして立ち上がると、フィリン?とドロッセルが私を見上げる。
「ミラの所へ行ってくる」
「……で、でも」
行っても仕方ないと言いたいのか、困惑の表情に変わる。
「彼女があれで止まると思えんよ」
行ってくると階段を上がり、ミラの休む部屋へと向かう。
「ミラ。入るぞ」
ノックをして扉を開けると。すると部屋にはミラの他にジュードもいた。私が部屋の中へ入ると二人がこちらを向く。重たい空気から何か言い争っていた風な様子が伺えた。
「どうかしたのか?」
ベッドに腰掛けた状態のミラが先に口を開いた。何があったのかは知らぬが、ジュードはすぐに顔を逸らした。
「いや。ミラの旅に私もついて行こうと思ってな」
私の言葉に目を見開く二人。ジュードはともかくミラまであんなに驚くとは思わなかったが。
「……フィリン。何を言って……」
「足が動かないくらいで諦めるキミではないだろ?」
何を言ってるのだと言いたげなジュードを無視し、ミラの前へと立つ。互いに見つめ合えば、ミラはふっと小さく笑う。
「当たり前だ」
「何時出発する?」
私はいつでも出発できるぞと言えば、ジュードが待って!と大きな声を出す。
「終わったんだよ、もう!」
「何が終わったと言うんだ。君が決めることではない」
苛立ちを露わにするジュードにミラは冷静に返す。ミラに力がないと言うもののミラは逆に力とは何かと問う。敵を倒すことでも精霊を操ることでもない。
「……諦めないんだね」
ジュードの力ない言葉にミラはそれが使命だからと答える。唯一ミラに同意できないのは使命という言葉に囚われること。使命など言い訳にしか聞こえない。自ずと進む道が使命という言葉で片付けられるとは到底思えない。納得できたのかできないのかジュードは部屋から去っていき私らは取り残された。