その名の意味を知る
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「で、キミはこれからどうするんだい?」
シャール邸ではなくここは街の宿屋の一室。この部屋を取った張本人に尋ねるが窓の外を見つめたままで返事はない。シャール邸ではまだミラの治療が続けられているだろう。が、雇い主がそういう状態だと言うのにアルヴィンはミラをシャール邸に運んだ後、そのまま屋敷を後にした。
「答えぬか」
思うところがあるのか、企みがあるのか。表情が見えないためわからない。
「それでも構わぬよ。邪魔をしたな」
答えたくないことを答える必要はない。私と彼とは大した関係ではない。互いを深く知る必要などないのだ。私が訪ねたのはただの探求心の一つ。カラハ・シャールに戻る際から神妙な面持ちをしていた。それがこの結果なのなのだろうか。
「……お前は平気なのか?」
ドアノブに手を伸ばすと同時に後ろから声を掛けられる。ゆっくりと振り返れば彼はこちらを見ていた。逆光ではっきりと表情は伺えないが、聞いてきた本人が複雑そうにしている。
「何に対してだ?」
「決まってる。お前、あの領主に惚れてたんだろ」
何を問うのかと思えば。左手を腰に当て、はぁとわざと大きな息を吐く。あまりにも馬鹿らしい問いに呆れて物も言えない。いや、言う気にならないと言った方がいいのか。
「くだらんな」
実にくだらない。この男に対する興味というものが消えていくが如く。
「キミが気にしていることはそんな事かい?」
「……ったく。からかいがいがねぇな、お前は」
さっきは打って変わった表情で頭をがしがしと掻く。彼が私がくだらないと思うことを気にしているとは思えない。自分にメリットのないことなど考えないだろう。一癖も二癖もあるこの男のことだ。今後のことを考えていないわけがない。
「これからどうするんだ」
「そうだな。クレインにドロッセルを頼まれているが、他のことを考えている」
もちろんドロッセルと話をしてからだがな、と付け加えて。
「他のこと?領主様のお願いを蹴ってまでのか?」
「相変わらず人の詮索が好きだな……まあ関心があってな」
クスクスと笑えば、何だよとムスッとした顔をする。自分のことは話さないくせに焦らすと怒るとは随分矛盾する男だな。
「ミラの旅に付き合おうと思う」
「っ!?待てよ。ミラはもう……」
無理だろう。と言いたいのだろう。確かに彼女の足は火傷では済まない大怪我を負っている。勝手な診断を言えば二度と歩けるとは思えない。
「だが、それで諦めるようには見えない」
まだ出会ったばかりだが、彼女の迷いのない瞳は全く自分の意志に揺るぎがない。進むと決めたら進み続けるだろう。
「なかなか興味深い」
「……マジかよ」
どうしたらあそこまで一途でいられるのか見てみたい。あとはジュードとエリーゼがどうするのか。
「んじゃ、これを餞別にやるよ」
荷物から何かを取り出し私へと投げつける。咄嗟に手を出しそれを受け取ったが、思ったより重いもので思わず落としそうになる。
「これは……」
「珍しい本を見つけたから、まあ……ついでだ」
パラパラと適当にページを捲れば、色々と興味を引かれることが多々記されていた。興味が引かれるというよりは、これから調べるつもりだったものが主だったのだが。彼の思惑に嵌るのは些か癪だがそれもまあいいだろう。
「次の目的地は決まったのか?」
「――っ!?」
本をバッグに仕舞い、逆に問えば目を見開かれた。この質問は予想していなかったのか。
「言い方を間違えたな。『目的』はなんだ?」
彼は何か目的があってジュードやミラたちと行動を共にしていたのだろう。次の以来がイル・ファンと言っていたが、私と別れてすぐにジュードたちと行動を共にしていると聞いた。だが以来を持ちかけたのはアルヴィンからと言うのならば彼の私に言ったことは嘘になる。
「……お前って本当に怖い女だな」
「私からすればキミも十分わかりやすい男だがな」
気付かないのは相手の本性を見ようとしないからか。人を信用しすぎるからか。
「別にキミが何をしようか私は一向に構わないのだよ」
キミの行動を制限する権限は私には何一つ無い。今度こそドアノブを捻り部屋から出ようとする。
「まあ、すぐに再会することになるだろうがな」
相手の返事を待たずにそのまま部屋を出る。私の思うとおりなら、そう待たずして行動を共にすることになるだろう。たぶん、それが彼の目的だから。