その名の意味を知る
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「……答えろ。なぜ黒匣を使う。民を犠牲にしてまで、なぜ必要以上の力を求めるのだ?王は民を守るものだろう?」
キッとナハティガルを睨みつけるミラ。だが、ナハティガルは鼻で笑った。
「お前にはわかるまい。世界の王たる者の使命を!己が国を!地位を!意志を!守り通すためには力が必要なのだ。民はそのための礎となる」
これがラ・シュガルの王の言葉か。オールドラントの二人の王とは大違いだ。とは言え、その姿を見たことがあるのは、母国であるキムラスカ王だけだがな。個人的にはマルクトの皇帝にも会ってみたいが……などと言っている場合ではないな。
「……貴様はひとつ勘違いしている」
ナハティガルを睨みつけたままミラが口を開く。ナハティガルはなんだと?と眉を少しだけ動かす。そしてミラは剣を呪帯へと向ける。
「このような物で自分を守らねば、黒匣の力など頼らねば自らの使命を唱えられない貴様に、できることなど何もない。なすべきことを歪め、自らの意志を力として臨まない貴様などに!」
怒りに満ちたミラ。その言葉を聞いてもナハティガルの表情は微動だにしない。ただ見下ろしていた。
「儂に傷一つ負わせられぬお前が何を言っても、負け惜しみにしか聞こえんわ」
「勘違いは一つではないようだな」
言うと同時にミラは走り出し、呪帯を抜ける。確か爆発が起こるはずなのだが。ジュードたちが制御装置を解除したとは思えないのに。速さでカバーしたというのか?本当に面白い。ミラは剣を振り上げ、防御するナハティガルを吹き飛ばす。しかし制御装置を解除せぬまま呪帯を抜けるのは無謀だった。爆発がしないわけがないのだから。
「ミラ!」
爆発の威力は思ったより強く、彼女の姿を私の位置からでは確認できない。
「ふ、ふはは!それが意志の力とやらか?やはり傷ひとつ負わせられぬではないか」
「陛下ぁ!」
さすがのナハティガルも驚いたのか、さっきまで余裕のあるものとは違った表情を浮かべる。
「貴様に使命を語る資格などないっ!」
止まらぬ爆発にさすがの私もこのままではマズいと判断する。
「荒れ狂流れよ!――スプラッシュ!」
せめてミラの周りの炎をどうにかせねば。炎と煙のせいでミラの姿は見えない。まずは姿を確認するが優先。譜術でとにかく炎を消す。
「……今の、力は何だ……?」
「……ちっ」
離れたところからどちらの呟きかはわからぬがそれを無視しミラへと駆け寄る。幸いにも生きている。ただ……傷は酷い。
「ともかく応急処置を!」
鞄の中からまず水の入った水筒を取り出しミラの足に万遍なく掛ける。簡単に血を洗い、今度は消毒液の入った小瓶を取り出す。口で蓋を開け、すまんと胸中で謝りながら彼女の足に掛ける。が、本来なら酷い痛みが走るはずなのに、ミラはピクリとともしない。
「ミラー!フィリン!」
そこにやってきたのはジュードたち。私たちの姿を見て全員が息を飲んだのがわかった。その原因は私の腕の中のミラの姿。ジュードはすぐにエリーゼに治療の指示を出す。涙を流しながら治癒術を施すエリーゼ。ティポも泣きながら叫んでいた。
「……お前は大丈夫なのか」
「残念ながら無傷だ」
治療の方はジュードたちに任せる。そんな私の側に寄ってきたのは眉は寄せたアルヴィンだった。
「残念とか言うな」
「……すまんな」
意識のないミラを一瞥して目を閉じる。何に対しての謝罪なのだかな。
「これ以上は無理だ。カラハ・シャールに戻ろう」
「あっちも騒がしくなってるようだしな」
賢明にミラの手当をするジュードにアルヴィンが声を掛ける。ゴーレムとと聞こえたが、あんな物を相手するには今は分が悪い。
「急いで退いた方がいい」
「皆さん!馬車へ!」
クレインの兵士たちが用意してくれた馬車へと乗り込む。怪我をして意識のないミラはアルヴィンが抱え、ジュードはエリーゼの私はドロッセルの手を引く。
「いいぞ。出せ!」
全員が乗り込んだのを確認し、ローエンへと声を掛ける。まだ起動したばかりのゴーレムの動きは少々鈍く、全力で走る馬車には追い付かない。
「こちらの姿が見えなくなれば追っては来ぬ。安心しろ」
私の腕にしがみついたままのドロッセルの頭をあやすように撫でてやる。が、彼女は小さく首を振るばかりで何も言わかった。ただその細い体は震えていた。そして私は悟った。彼女は知っているのだと。
「……すまんな」
これも何に対しての謝罪だろうか。守れなかった事への罪悪感なのか。何も掛ける言葉が見つからなかったことなのだろうか。私にはわからなかった。