その名の意味を知る
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「ミラ!」
制御室の鍵を開け中へとはいる。他の部屋より幾分か明るく広い部屋だった。人の気配を感じ下を見れば床へと倒れるミラの姿。離れたところにはドロッセルとエリーゼも見え、怪我をしている様子はなく安堵する。
「……フィリン」
私の顔を見て安心したのか目尻涙が浮かぶ。エリーゼも私の服を引っ張り小さな声で、怖かったですと。
「儂は、クルスニクの槍を持ってア・ジュールをもたいらげる」
威圧感を剥き出しにした男。先日カラハ・シャールで見たあの男だ。ラ・シュガルの王、ナハティガル。ジッと奴を見据えるが、今の私たちでこ奴に太刀打ちできるのか流石に不安になる。己の力量くらい理解している。少なくとも私よりは強い。
「それでカラハ・シャールを……!どうしてこんなヒドイことばかり……」
「下がれ!貴様のような小僧が出る幕ではないわ!」
悲痛な叫びを上げるジュードに声を怒声を浴びせるナハティガル。倒れていたミラがナハティガルの名を叫び、再び剣を手にしナハティガルへと立ち向かう。
「貴様などに我が野望阻めるものか」
「ミラ!」
突っ込むミラへ応戦するがためか、ナハティガルも武器を構える。ミラへと剣を振り下ろそうとした瞬間、何かがそれを阻んだ。
「イルベルト、貴様か……!?」
「ローエン・J・イルベルト……」
魔法陣の上に立つローエンを見てナハティガルが初めて表情を変えた。驚きと動揺が入り混じった表情。側に立つ男……確かジランドと聞いていたな……も険しい表情で呟くような声でその名を口にした。
「イルベルト……?歴史で習った、あの『指揮者イルベルト』?!」
「ただのじいさんじゃないと思ったが……」
ローエンのフルネームを聞き、信じられないといった風に目を見開くジュードと額から汗を垂れ流し苦笑するアルヴィン。ローエンは軽やかに地へと降り、迷うことなくドロッセルの側へと行く。心配しました、と安心させるかのように小さく微笑めば、ドロッセルも小さく微笑み返す。その姿をただ目を細めて見つめるナハティガル。
「落ちぶれたな、イルベルト。今の貴様にはそれが相応だ」
「陛下、こちらへ!このような者どもにこれ以上構う必要はありません」
返事するでも頷くでもなく、ジランドの言葉にナハティガルは黙って身を翻し扉の奥へと向かう。その後を追うようにジランドと兵士がついて行く。
「逃がさん!」
扉が閉まる寸前、ミラは飛び出し扉の奥へと行ってしまった。そして、その後を実は私も追っていた。後ろで私らを呼ぶ声がしたがとりあえず無視だ。
「フィリン!?」
「好奇心とは尽きぬものだよ」
横を走る私に驚くミラ。ふふふっと笑えば、睨まれたが今はそれどころではないようで、ミラは直ぐに前を歩くナハティガルへと視線を向けた。
「待て、ナハティガル!」
少々広い所に出たところでミラがナハティガルへと攻撃を仕掛ける。が、それはあっさりと阻まれてしまいナハティガルにはかすり傷一つない。なかなか厄介な代物だな、黒匣というやつは。だが、それこそが今の私の興味なのだ。
「無駄だ。自称マクスウェル……何だ、貴様は?」
ミラを睨みつけていた視線を私へと変える。ミラについて来た私の正体などこの者が知る由もない。もちろんジランドも。訝しげな表情で二人話私を見る。
「そうだな……自称学者というところか?」
何もない空間から鎚を取り出す。そのまま自身の音素(フォニム)振動数に合わせて鎚を大きくさせればナハティガルとジランドが目を見開く。精霊術ではない見たことのない異質な力に驚いてるのだろう。
「……何をした?」
「キミらには理解できない力さ」
口で説明したとて彼らには扱えぬ力。当然、教える気など更々ない。いくら私とて目の前であの様なことが起こって怒りを覚えなかったわけではない。敵討ち……なんて事を彼が望むはずもない。そんなくだらない事に時間を費やす気もない。
「安心しろ。キミらにも知ろう思えば知る方法はある……当然、私ではないがな」
可能性を示唆するならば、音素について一番会話をしているあやつのみ。アレならば金もしくは命と言われればあっさりと教えるだろう。それでも到底理解は出来ぬがな。
「まあよい。後で捕らえればよいだけだ」
とまたミラへと視線を戻す。よく見ればミラも私を見ていた。気にならぬ訳がないか。精霊をいっさい使わぬ力に興味がないわけが無かろう。