想いと静かな怒り
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「んで?どうやって内通者と連絡するんだ?」
ガンダラ要塞へとやってきたのはいい。が、これだけ頑丈かつ厳重な要塞へと入るというのか。思っていたよりデカいしな。
「ジュードさん、あの通風口の内壁を一回、二回、二回と叩いてください。その後、三回、一回と返ってきたら手はずが整っている合図です」
ローエンに連れてこれた場所は建物の外れたところ。少し高いところに人が大人一人屈んで通れるくらいの通風口があった。ローエンの言葉に頷きジュードは通風口へと登る。
「おや?大丈夫のようだな」
手でOKの合図を出すジュード。私、ローエン、アルヴィンの順に通風口へと登り中へと入る。すればそこで内通者達が待っていた。ある程度の状況を確認し私たちはミラたちの捜索に向かう。
「無駄にデカいところだな」
「無駄とか言うなよ」
あっちへ行ったりこっちへ行ったりと面倒だ。あちらこちらに配置されたラ・シュガル兵と遭遇して戦闘になるわ、狭い通路を通るわで服が汚れた。汚れるのはまぁ構わんが。
「大丈夫?手、痛くない?」
「大丈夫だ」
傷はキミが治したというのに、と思うが平気だというのを見せるために何度も手を握ったり開いたりする。ただ治癒するのに時間を空けてしまったせいかうっすらと矢が貫通した痕があるが。これは戒めとして残ったのだろうと勝手に判断した。詰めが甘かった。ただの暴君だけではのし上がれない。交渉が決裂したのなら処分するつもりだった。だからバーミア渓谷でも捕らえてマナを吸い取っていたのだから。
「けど、いつ見てもフィリンの力って不思議だね」
「そうか?」
小休憩を物の陰で取っているとふいにジュードが訪ねる。何度見ても慣れないみたいに。
「マナじゃない力があるなんて……」
「私は実に興味深いよ。違う力という物は」
私の世界、オールドラントでは音素(フォニム)が力の源。誰もが持っていて、生活にも活用されている。だが力の源と呼ばれる物はどの世界にも存在していて呼称が違う。利用方法は万国共通のようだしな。
「でもその……コンタミネーションだっけ?そんなのは使えないよ」
「これは特殊だ。使えるものなどオールドラントでも私を含めて二人しか知らぬよ」
一人はこれを私に教えてくれた張本人だと話す。興味があるのかどんな人?と訪ねるので死霊使い(ネクロマンサー)と呼ばれる軍人で世界で最も恐れられる軍人だと言ったら三人は黙った。
「何においても優秀だよ。頭脳も能力も。すべてに恵まれている」
顔も美形だと言えば、アルヴィンが俺のような奴が他にもいるのかと呟いたからそこはスルーしてやった。
「唯一の欠点は感情だな。私も人のことは言えないが、常人のような感覚はない」
何が悪で何が正義か。人の生死も時々わからなくなる。ただ彼と唯一違うのは出会いだ。
「私の親友が彼と共にしている。最初に比べて人らしく見えると言っていたな」
世界を飛び回る親友が頭に浮かぶ。その途中で顔を見せに来てくれたときに楽しそうに語る彼女。私には縁のない話だと思っていたが、このリーゼ・マクシアに来てからその考えは変わった。今まで持ち合わせていなかった感情が私を満たす。気付くのが少々遅かったがな。
「同じ物など何一つ無いと言うことだよ」
「よく、わかんないかも」
「お前の話、難し過ぎんだよ」
至極丁寧に話したつもりなのだが誰からも同意は得られなかった。オールドラントではそんなことなかった……と思うのだが。
「そろそろ行きましょうか」
「そうだね」
急がなくてはならない。三人が無事とは限らない。ミラが一番に狙われ次にドロッセルか。エリーゼに関しては私にはあまり情報がなくて何とも言えないが。
「フィリン」
辺りを警戒しながら進んでいれば、いつの間にか背後に立ったアルヴィンに名を呼ばれる。
「後悔してるのか?」
「何を言う。悲しくとも進まねばならぬ時もある」
親友たちの旅も今の私らと似てなくもない。立ち止まったらそこで終わり。せめて彼の代わりに、手の届く範囲くらいは守ってみたいとも思うようにもなった。私の言葉にアルヴィンは目を見開き、すぐに目を反らして、そうか、とだけ呟いた。
「何においても立ち止まるのは嫌いなのだよ」
止まったらそこで終わり。知識を得るのもまた然り。彼は何も答えなかった。
((知ったばかりの感情は残酷なものだよ))