想いと静かな怒り
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「このままでは、ラ・シュガル、ア・ジュールとも無為に命が奪われる。僕は領主です。僕のなすべきこと、それは、この地に生きる民を守ること」
彼のような人物が王だったら国は豊かになるのかもしれない。昔読んだ書物にもあった。民なくしては国は成り立たない。ナハティガルがやろうとしていることはその真逆だ。
「……なすべきこと……」
その言葉を噛みしめるように確かめるように呟くジュード。
「そう。僕の使命だ。力を、貸してくれませんか?」
彼らのやっていることはクレインが成したいこととほぼ同じ。そんななかで私の不安というものが一気に膨れ上がってきた。
「僕たちは、ナハティガルを討つという目的をもった同志です」
クレインがジュードへ手を差し出す。少し躊躇ってからジュードがその手を取ろうとしたときだった。微々たる殺気と気配のようなもの。私はとっさに手を広げて二人の前へと立つ。が――
「旦那様っ!!」
手のひらに鈍い痛みが走ったと同時に誰かの悲痛な叫びがした。いや声はローエンか。まるでスローモーションのようにゆっくりと振り返ればゆっくりと地面へと倒れるクレインの姿が見えた。心臓の辺りに一本の矢。これが不安の正体。
「ちぃっ!!」
賺さずアルヴィンが矢を放った者を見つけ銃を打つ。暗殺者と思われる者は悲鳴も上げずどさっと音を立てて落ちた。
「クレインさんを早く屋敷の中へ!!」
手に走る痛みが思考を邪魔をする。一体何が起こった。彼に、何が起こった。頭が上手く働かない。
「フィリンっ!お前も早く来い!」
呆然と立ち尽くす私の手を掴むアルヴィン。彼に連れられ屋敷へと入り、引っ張られた先はクレインが寝かされているソファー。ジュードがクレインの胸から矢を抜き精霊術で傷を癒す。
「お願いします!どうか、旦那様を……っ」
「……ローエン。無理を言ってはいけない」
青白い顔のクレイン。すでに生気はない。休みなく術を使い続けたジュードは疲れからか床へとへたり込む。肩で息をし今一度、治癒術を使おうとするが力が入らないようだ。それを見てか、クレインは力なく首を振る。
「僕はここまでのようだ……この国のことを……頼みます」
ローエンを見て言うクレイン。何を言うのだと、ローエンが目を見開く。
「それこそ無理です!私に、そんな力は……」
「無理じゃないはずだ……『あなた』なら……」
ああ、もう助からない。わかってはいたが、受け入れられなかった。さっきまで普通に話していた彼が、もう話すことが出来ないことを。
「フィリン……ごめん。僕は……ここまでです。ドロッセルを……お願いします」
「……出来る限りは、しよう……」
声が詰まる。こんなことが初めてでよくわからない。だが、それが彼の最後の願いなら私は受け止めなくてはならない。
「そして……あなたの、思うように……」
生きてください。そう口が動くと同時に、クレインは目を閉じ呼吸が止まった。それは死と呼ばれるもの。彼は志半ばにして無念の死を遂げた。
「フィリン。手を……」
「あとでよい。キミの方が、参ってしまうよ」
手の怪我を治療すると言うがそれを断る。手持ちの傷薬を塗りと包帯をやや乱暴に巻く。今は私より……
「クレイン様!……っ、そんな……」
慌ただしく屋敷へと入ってきた兵士は、ソファーに横たわり眠るように死に至った彼を見て驚愕する。
「報告を続けてください」
「は、はっ!ラ・シュガル軍が領内に侵攻。街中でも戦闘が発生している模様です」
平静を装うローエンに兵士が敬礼して報告する。兵の報告に私たちは目を見開く。街には、彼女らがいる。
「街にはミラたちがまだ……!」
「……私たちはお嬢様たちを保護しに参ります」
ジュードが慌てて立ち上がる。ローエンの言葉に頷き、クレインを見る。
「旦那様をこのままにしていくことを、お許しください……」
「私は、ここにいる。ドロッセルを頼む……」
彼を一人にすることが出来なかった。だから今頼まれたばかりだというのに、ドロッセルをジュードたちき任せた。アルヴィンは何も言わなかったが、ジュードは任せて!と私に頷き街へと走っていった。
「キミは……馬鹿だよ。だけど、嫌いではなかったよ……」
すでに体温を失い始めているクレインの頬に触れる。これが人の死。知らぬ訳ではない。なのに、なぜか私の頬は濡れていた……