柑橘的な出会い
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「確かにカラハ・シャールは我がシャール家が治めていますが、何故僕が当主だとわかったのですか?」
ああそこか。何を疑問と思ったのかと思えば。
「現当主の名前くらい調べ済みだよ」
図書館に六家の家系図はあった。閲覧ができなかったのはイルベルト家とトラヴィス家だった。前者は理由はわからないが後者はお家騒動的な何があったせいで閲覧の規制されていた。
「僕自身を知っていたわけではないと?」
「キミも質問が多いな……名前しか知らなかったよ」
そんなに私は怪しく見えるのか。何故出会う者は皆、私を質問責めにするだろうか。正直、面倒くさくてならない。
「旦那様。あとはお屋敷に着いてからの方がよろしいかと。衰弱なさってるこの方に無理をさせては…」
「そうだな。ところで、あなたの名前を聞いてもよろしいですか?」
質問責めしてくるクレインを軽く諫めるローエン。そこには感謝せねばならないな。
「そう言えば名乗ってなかったか。私はファリンシア・アラングラ。フィリンで構わぬよ」
「フィリンさん、ですか」
この様子からだと私は探られているようだな。まあ、あんな所で餓死寸前になっていれば怪しいのはわかるが。
「そう言えばノエルにも言われたな。あなたはただでさえ怪しいって…」
「はっ?」
ついつい口に出してしまい、何でもないと首を振る。こういうところが怪しいと言われるのかもしれないな。なるべく気を付けねばならぬな。
「差し支えなければカラハ・シャールへは何をしに?」
「ふふふ。用心せぬでよい。私はただの旅人。各地を回ってただ知りたいだけだ」
一杯の水と一かけのチョコレートでも空っぽの体にはエネルギーを得るには十分だったようだ。足を組み腕を組む。その動作を彼らは目を離さず見ている。
「知りたい…ですか」
「ああ。その土地の特徴、歴史。あらゆることだ。私はただ知識が欲しいだけだ」
何でもよい。ただ『知る』ことができるなら。知識を得ることができるのなら。だから旅をしている……と言ってもまだ一月も満たぬがな。
「私は学者だ。知識を得たいと思うのは必然だろう」
逆に私からそれを取ったら何も残らない。これに関しては幼なじみらのお墨付きだ。
「別に君らに害を与えようなど考えてない。面倒くさい」
「それを信じろと言う証拠はありますかな」
疑り深いのは主人のためか別の理由か。何にせよ、証明せねばならぬと言うことか。
「証拠はないが街に着いたら説明はしよう。少々時間もかかるしな。私としても全部を説明できるほどの体力は残ってない」
久しぶりの食料に体は満たされたとはいえ、栄養失調なのは代わりない。すでに十分と言えるほど喋ったのだ。かなり疲れたし眠くもなってきた。そう思ったら欠伸を抑えられなくて、大口を開いて欠伸を掻く。口元を手で覆っているがノエルなら、はしたないとか言いそうだな。
「……そうですね。無理をさせるわけにはいきませんね」
「説明は嫌いではないが、今はすまないがな」
さすがに少し頭もフラフラするな。今までの人生で餓死寸前はなかったからな。
「しかし……飲まず食わずの限界というのは目が回るのだな。極限までは初めてだったから、なかなかよい経験だ……」
「や、休んで下さい!屋敷に着いたら食事を用意させますので」
ふふふふっと笑う私を見てクレインが慌てだす。ローエンの方を見たりと落ち着きがない。見ていて面白いと言うと怒られるだろうから言わぬが、正直面白い。
「放って置いてもすぐには死なぬよ」
「そう言う問題じゃありません!」
おや、本気で怒らせてしまったようだ。こういう怒り方は本当に幼なじみたちにそっくりだ。
「すまぬすまぬ。そう言うつもりじゃない……そうだな。膝を借りるぞ」
「はい?」
そのまま横へと倒れ、クレインの膝の上に頭を乗せる。何か言っている声が聞こえるが、意外と寝心地が良くて段々と意識が消えていく。そう言えば寝たら死ぬと思っていたから、ここ二日ほとまともに寝てなかったな。
「……おやすみ」
「フィリンさん!?」
眠気に任せて意識を飛ばす。これが私のリーゼ・マクシアでの旅への第一歩だった。
(えっと……ローエン?)
(お屋敷まで我慢して下さい)