想いと静かな怒り
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「キミも全く、無茶をする」
「すまない」
街につき住民たちを病院へと連れて行った。衰弱してる者も多かったが命には別状なく、しばらく安静にしていればよいとのこと。それにクレインやジュードたちは安堵した。そして屋敷に戻り、クレインは彼らに礼としてガンダラ要塞を抜けるための手伝いをすると言った。すぐに兵を手配し潜り込ませた。もしかしたら、最初からそのつもりだったのかもしれないが。
「まあよい。それと、やはりもう少し私はここにいることにするよ」
この引っ掛かる何が消えぬ限りはこの街を離れる気になれなかった。
「僕やドロッセルは大歓迎ですが、なにかあったのですか?」
「今日の一件を見て、戦える者が一人でも多くいた方がよいだろ」
あまり嘘というものは吐かぬほうなのだが、この不安を口にしてはいけない気がした。だがこれもすべてが嘘ではない。ナハティガルがまた強引に住民を連れて行こうとしたとき少しは役に立てるだろう。
「本当にいいんですか?」
「くどいぞ」
同じことは二度言わぬ。そう言えばわかりましたと、彼は強引に納得した。
「ガンダラ要塞のほうはどうにかなりそうなのかい?」
「元々向かわせてあった兵たちにすぐにでも攻略すると伝えるだけなのですが……報告は明日の朝になるでしょうね」
朝になっても戻らなければローエンに向かわせると。ふと思った。何故ローエンはクレインに仕えているのかと。
「一つ聞きたい。何故ローエン程の者がキミに仕えている?」
判断力に戦闘能力、知識どれを取ってもただの執事には見えない。それ相応の経験がなければ、あんな事は出来ぬはず。私の問いにクレインは表情を強ばらせ黙った。言えぬ何があるのか。
「……すみません、僕からは。ただ行く宛がなさそうにしてるのを見たので僕が声を掛けました」
なるほど。ローエンが知らぬ事実をクレインは知っているということか。だから今はそれを聞くなと。
「構わぬよ。ただ思っただけだ」
興味はあるが無理な詮索は好まない。今日はもう休むよ、とそれ以上の会話は望まず、彼の執務室を後にした。確かな何かを話さなかったことを、後で後悔することになるとも知れず、私は早々と床へと着いた。
「ローエン、どれくらいで戻ってこれるの?」
明朝、やはり兵は戻ってこずローエンが要塞へと向かうこととなった。昨日の今日で時間を掛けていられない。すぐに昨日のことはナハティガルにバレるだろう。
「そうですね。馬を使えば一日もあれば戻れるかと思います」
行く場所が行く場所だからか、心配そうな表情のドロッセル。そしてジュードたちへと向き直り、肩を落として小さく息を吐く。
「それなら、もしかしたら明日にはみなさんとお別れかもしれないのよね……」
せっかく友達になれたのにもうお別れと残念そうにする。そしてドロッセルはすぐに顔を上げ、笑みを見せる。
「ならエリー、ミラ!お買い物に行きましょう」
名案と言わんばかりの笑顔なドロッセル。真っ先に反応したのはティポとエリーゼ。決まりね!と手を叩くドロッセルとエリーゼがミラの両腕を取って引きずって露店の方へと去っていった。
「お前はいいのか?」
「彼女らのような買い物は趣味ではない」
ドロッセルもそれがわかっているから私を誘ってないのだよ。と帰れば納得と、アルヴィンは息を吐いた。
「この今の幸せのために、僕も決心しなければいけない」
ドロッセルたちの去っていった方を見ながらクレインが呟く。ジュードへと向き直り、彼をジッと見つめる。
「やはり、民の命をもてあそび、独裁に走る王にこれ以上従うことはできない」
クレインの決意にジュードとアルヴィンが驚く。前もって聞かされていただろうローエンとそれを予想していた私はただそれを黙って聞いていた。
「……反乱を起こすのか?」
「……じゃあ、戦争になるの?」
王に逆らうと言うことは余程の覚悟がいる。正直、勝てる見込みがあるとは私には思えないがクレインの決意は固かった。
「ナハティガルの独裁は、ア・ジュール侵攻も視野に入れたものと考えられます。そして彼は、民の命を犠牲にしてでもその野心を満たそうとするでしょう」
私はナハティガルという人物をよく知らない。街で見聞きした情報しかない。ただ、先日直に見た雰囲気からクレインの言いたいこともわかる気がした。あれは放っておいては危険だ。彼らにとっても私にとっても。直感というものがそう言ってる気がした。だがそれ以上に不安は増す。