ざわつく心
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「本当によろしかったのですか?」
私の前を歩くローエンが何度目かの確認をする。その度に皆の目が私へと向けられる。
「くどいな。恩人を助けに行って何が悪い?」
街に戻ったときから続く不安感は隠しつつ、その何度目かの質問に溜息で答える。あの異様な雰囲気を醸し出していたナハティガルという男。アレから住民を取り戻すべく兵を連れて出て行ったクレインの後を追う。無事にいてくれれば何の問題はない。
「ですがあなたは旦那様の大切な……」
「くどいと言っている。どちらにしても今更だ」
私たちが着いた先、バーミア峡谷。いくつもの地層から成り立った峡谷。
「すごい地層だね」
「ここはラ・シュガルでも有数の境界帯ですからね」
辺りを見回し感嘆の息を吐くジュード。確かに、オールドラントでもそうそう見れる景色ではない。
「避けろ!」
キラリと光る。それが放つ気配に気づいた私たちはそれぞれ岩場へと飛び込む。地面には矢が刺さっている。岩影から警戒しつつ矢が飛んできた方を見ればラ・シュガル兵がボーガンを構えたままこちらを狙っていた。
「よほど見られたくないことをしているのだろう」
「クレインの予感は当たったということか……」
入り口からそう入った所ではないのにこれだけ警戒している。そしてクレインらの姿は見えない。不安は的中かと奥歯をギリっと噛みしめる。
「アルヴィン」
「……ダメだ、場所が悪い」
アルヴィンが銃を構えて狙いを定めるが、狙おうにもこちら側からでは岩場が邪魔で兵士には当たらない。その間にも何度も矢は放たれる。このまま時間を掛けてしまえば増援を呼ばれかねない。
「ミラ、アルヴィン。僕が注意を引きつけるよ。その間に狙撃兵を」
「囮を引き受けるというのか?危険だぞ」
大丈夫だよ。と頷くジュードに任せると返すミラ。そしてジュードは如何にも狙って下さいと言わんばかりに岩影から出て仁王立ちする。矢の来る方向だけに集中し、狙撃兵が放った矢を見切って避ける。まさか避けられると思わなかったのか、狙撃兵の集中が一瞬途切れた。当然ミラとアルヴィンはそれを見逃さず見事の連携で狙撃兵を倒した。
「……あそこか」
狙撃兵が守っていた先に洞窟の入り口があった。そこから妙な気配を感じ、奥へと進む。その奥には何なら装置が多々あり、その内のあまり見たことのない物の中に、クレインと住民たちの姿があった。
「クレイン様!……やはり人体実験を行っていましたか」
彼の姿を見つけたローエンが声を上げる。入り口に張られた結界のようなものにミラが手を伸ばすとアルヴィンが、手が吹き飛ぶぞ!と呼び止める。見ただけでそれが何なのかわかるアルヴィンに疑問を抱くが今はそれを問う暇はない。
「これ、研究所でハウス教授を殺した装置と似てる……!」
「ここで黒匣の兵器を作ろうとしていうのか?それほど容易につくれはしないはず……私達を追うのをやめた理由がこれか」
くだらぬ知恵ばかり働く連中だな。とミラは首を振った。目立つ場所ではなく人の近寄らぬ場所でこっそり作るというわけか。まあ、それが一番安全なのだろうが。しかし、本当にくだらんな。
「……展開した魔法陣は閉鎖型ではないようです。余剰の精霊力を情報にドレインしていると考えるのが妥当です。谷の頂上から侵入して、術を発動しているコアを破壊できれば……」
みんなを、助けられる?とローエンの言葉にジュードが問う。それに彼は頷く。だが時間勝負なのは変わりない。のんびりしていてはクレインも住民も持たないだろう。
「やれやれ山登りか」
「嫌なら待ってるか?」
見えぬ頂上を見上げて溜息一つ。わざと吐いたと気づいただろうに意地悪く聞いてきたアルヴィンに、馬鹿を言うな。と返して先に登り始めるジュード達の後を追う。
「おまえって人に入れ込まないタイプだと思ってた」
「そうか?クレインは命の恩人だ、特別だよ」
私の口から特別という言葉が出たことに驚いたのか、アルヴィンが目を開いてこちらを見る。相変わらず失敬な奴だな。
「まあ何かあればキミも助けてやらんでもないぞ?」
「へいへい」
一応は命の恩人だしな。と付け加えれば、肩を竦めるアルヴィン。
「私は嘘は吐かぬよ」
どんな嘘吐きだろうと裏切り者だろうと命の恩人なのは変わらない。それにどんな悪人だろうと助けられるものなら助けてやるさ。それが興味のある人間なら尚更な。皆、私を誤解しているような気もするな、うむ。