物語に似た感覚
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「……何の無茶をする気だい?」
ノックと同時に部屋の扉を開ける。返事をする前に開けられたものだから意表を突かれた部屋の主は手の物を隠す間もなく、私の侵入を許した。
「……フィリン」
私にも知られたくなかったのか、バツの悪い表情を浮かべる。
「馬鹿なことは止めた方がいい」
「馬鹿なことじゃない……早くしないと街の者が……」
剣を腰のベルトに差し、視線を私から離す。どういうことだ?と問うが、なかなか口を開かない。だが扉の真ん前に立つ私が話さなければ退かぬというのを理解したのか小さく息を吐いてようやく口を開いた。
「さっきナハティガルが街の者を連れて行った。理由を尋ねたが国のためとしか返答はなかった……だけど、さっきのジュードさんたちの話を聞いたら……」
何かしているのはわかった。ただその情報が一切入ってこない中で大した理由なく街の者の連れて行った。しかしナハティガルは人体実験をしていると聞いて不安になったのだろう……いや、住民の命の危機を察したのだ。
「だからと言って、領主であるキミ自ら行く必要はないだろう?」
兵士たちに指示をし、救出できる状態かを見極めてからでも遅くはないかも知れない。わざわざ自ら危険な場所へと行く必要ない。
「いえ。住民を守るのも僕の、領主の役目です」
退いて下さい。私の前まで来て、無理矢理外へと出ようとするクレイン。私は後ろ手で鍵を掛け、彼の胸を押して後ろへと後退させる。
「危険だとわかっていて行かせるほど私はお人好しではない」
そこまで愚かな思考など持ち合わせていない。あのナハティガルと言う男から感じたものは恐怖に近いものだった。それに、あの不安が募る一方なのも気になる。
「キミにもしもの事があったらこの街の者はどうなる?それに、ドロッセルが悲しむぞ」
「……わかっています……ですが……」
このまま放っておくことも出来ない。クレインは私の手を引き、抱き締め……すみません、と耳元で呟いて部屋の外へと出て行った。すぐに追いかけたが、すでに準備の済んでいる兵士たちを引き連れクレインは屋敷を出て行ってしまった。
「……馬鹿者めが」
「フィリン!」
手すりに拳を打ち、ギリっと奥歯を噛む。ここまで人に思い入れたことはないのだが、どうしても放っておけなかった。名を呼ばれ、玄関へと顔を向ければ今にも泣きそうなドロッセルがこちらを見上げていた。
「お兄様が……!」
「すまぬ。止められなかった」
こうなることがわかっていたから止めたというのに。彼女の所まで行けばドロッセルは私に抱きつく。
「ローエンは?」
「……ジュードさんたちに、救援を頼んでみるって」
さすがはローエン。一度決めたら引かないとわかっていたのだろう。ナハティガルを止めようとしている彼らなら、協力してくれるかも知れない。
「ドロッセル。クレインは何処に行った?」
「確か……バーミア峡谷って言ってたような……」
ちゃんと聞いた訳じゃないから確証はないけど、と。バーミア峡谷はクラマ間道を抜けた先だったな。一人先に行こうかとも思ったが、見知らぬ所に一人で行くのは得策ではないな。
「ドロッセル。私もローエンたちとともにクレインの元へ行く」
「えっ!?危険よ!」
魔物も出ると言うし危ないわ!と声を上げる。クレインが心配なあまり、忘れているのか。私はさっきまで旅に出るために街の外にいたことを。しかも樹界をさ迷っていたことを。
「大丈夫だ。一人で行くわけではない」
魔物云々と言うより、クレインが向かった場所にはたぶんラ・シュガル兵がいるだろう。イル・ファンではなくバーミア峡谷というのも気にかかる。そこにイル・ファンの研究所に似た何かを作っているのだろう。
「帰ってきたらまたお茶をしよう。今度はジュードやミラたちと一緒にだ」
だからドロッセルはここで待っていて、お茶会の用意をしておいてくれ。と私より少し背の高い彼女の頭を撫でる。キョトンとした目で私を見る。
「……フィリン」
「チョコレートも用意しておいてくれ」
とびきり甘いのをな、と笑えばドロッセルはうん!と頷いた。
「では行ってくる」
「気を付けてね!」
クラマ間道への出入り口で待っていれば彼らはやってくるだろう。と、私はそちらへと足を向けた。
((……悪い予感など当たらねばいい))