物語に似た感覚
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「クレイン様」
粗方の説明が終わると、少し離れた所に立っていたローエンが側に寄り何やら耳打ちする。雰囲気からいってあまりいいような様子はない。クレインはみなさんの相手を頼むよ、と告げて外へと出て行ってしまった。執務室ならいざ知らず、外に出るということは街の方で何かあったのか。
「俺もちょっと」
「アルヴィン?」
何かを見計らったかのように寄りかかっていた壁から体を起こし席を外そうとする。不思議に思ったジュードが首を傾げながら彼の名を呼べば、生理現象。一緒に行くかい?とからかいの言葉をかける。そしてそのまま離れていった。
「仕方のない奴だな。ドロッセル、クレイン不在ですまないが、忘れ物を取ってくる」
「ええ、わかったわ」
何処に忘れたのかはわかっている。だから階段を上り、少しだけドロッセルたちに視線を向けるとドロッセルはジュードたちに旅の話を聞かせて欲しいとねだっていた。楽しそうに会話する様子に微笑ましさを感じつつ、クレインの執務室へと入る。どうせ誰もいないのはわかっている。だからノックなどしない。
「……やれやれ」
閉められたらレースのカーテンを指で少し退かして外を見る。屋敷の前にはアルヴィンとクレイン……そして武装した数名の兵士たち。予感がないわけではなかったが、当たるとあまりいい気分ではないようだ。
「……全く、キミは面白いよ」
彼の机の上に置かれた一冊の本。それを手にして部屋の外へと出た。
「……あなた方が、イル・ファンの研究所に潜入したと知った以上はね」
階段をゆっくり降りればクレインたちは屋敷の中にいて、兵士たちはジュードたちに向けて武器を構えていた。
「アルヴィンさんがすべて教えてくれました」
「……私達を軍に突き出すのか?」
兵士たちに武器を構えさせて脅すような行為。彼の本心とは思えぬが、たかが十日程度一緒にいただけの私に本当の彼のことなど計り知れるものではない。だが、らしくはないと思った。
「いいえ。イル・ファンの研究所で見たことを教えて欲しいのです。ラ・シュガルは、ナハティガルが王位に就いてからすっかり変わってしまった。何がなされているのか、六家の人間ですら知らされていない」
クレインも椅子へと座り、眉を顰める。私は階段を降りきったところでその様子を眺めていた。らしくないと思ったが、やはり思うところがあったのか。
「……軍は、人間から強制的にマナを吸い出し新兵器を開発していた」
「人体実験を?まそかそこまで?!」
ミラの言葉に愕然とするクレイン。さっき屋敷から出てきたのがナハティガルと言っていた。あの男は人の命と引き替えに兵器を作り出していたというのか。
「嘘だと思いたいが……事実とすれば全てつじつまが合う」
悔しそうに奥歯を噛み締め、組んだ両手を思い切り握る。爪が食い込み今にも血が流れそうなくらい。実験の指導者はナハティガルかという問いにクレインはそうなるでしょうと答え顔を上げる。
「僕はドロッセルの友達を捕まえるつもりはありません」
ですが、即刻この街を離れていただきたい。はっきりとそう言った。そして、席を離れこちらを振り向く。私の顔を見て一瞬目を見開いたが、すぐに目を反らして階段を上っていった。
「フィリン……忘れ物は……」
「ああ、見つかった。だがもう一つ忘れたようだ」
階段をもう一度上ろうかと思いはしたが、少し訪ねたいこともあってジュードの側へと行く。
「キミたちはこれからどうする気だい?」
「どうって……」
困ったような表情をし、ジュードたちは顔を見合わせた。が、ミラだけははっきりとこう答えた。
「イル・ファンへ行き、ナハティガルを止める」
彼女の目的はその兵器と言うことか。研究所へと忍び込んだ理由はそれか。推測したとはいえまさにその通りだったとはな。
「アルヴィンはどうする?」
「そ、それは……」
彼ら……ジュードとミラが指名手配されているのを密告したのはアルヴィン。捕まっていたかも知れない原因を作った男を放っておくのか否か。
「それを決めるのはキミらだ。私はあやつがそう言う奴だと知っているからそうする可能性は見ていたが……」
いや。と言い掛けた言葉を飲み込み首を振って階段の手すりへと手を置く。ドロッセルに明日までは滞在すると言ってもう一度階段を上る。悪い予感というものは当たって欲しくはない。が、街に入ってから妙な胸騒ぎがしてならなかった。