柑橘的な出会い
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私がこのリーゼ・マクシアに来て半月そこら。突然この世界へとやってきた私を助けてくれた自称傭兵のアルヴィンと共にイル・ファンまでの旅をした。街に着き彼と別れた後は三日ほど図書館へと通い込んだ。その間に、この街にある研究所に不法侵入者が現れ逃げたとか騒いでいたが差しては気にしなかった。が、何故かあの男の顔がチラリと浮かんだ。
「……にしても、このままではマズいな……」
岩場に寄りかかり空を仰ぐ。私の気分と裏腹に空は雲一つないいい天気だ。出るのは溜息で動く気も失せている……いや動けないの間違いか。
「考え事をしながら歩くものではないな」
今となってはもう遅い。何故ならば、考え事をして歩いていたせいで道に迷い余分に買った食料も食べ尽くしてしまった。よりによってイル・ファンを出て一日で間違えたせいで方向が取れなくなってしまった。夜域でなければ太陽の方向を見て迷うことがなかったというのに。
「さて、どうしたものか」
このままでは餓死するな。うむ、これでは約束も果たせなくなる。それは困ったな。目を開けるのも億劫になってきたな。
「大丈夫ですか?」
もういっそ寝てしまおうかと考えてしまったとき頭上から声がした。こんな何もないところに誰がいるのだろうかと目を少し開けてみれば、二十代半ばくらいか、それくらいの歳の感じの男性が私を覗き込んでいた。
「どうかされたのですか?具合でも悪いとか」
腰を下ろし私の視線に高さを合わせていた。見るからに品のありそうな彼は一体何者か。という疑問も浮かぶが、空腹過ぎてその疑問もすぐに消え去る。
「……いや、ただの行き倒れだ」
「えっ?それは……ローエン!」
私に答えに困惑した彼は後ろへと振り返る。そこでようやく気づいたが、彼の後ろには馬車が止まっていた。それなりの身分だと伺えるような立派な馬車。
「お呼びですか、旦那様?」
「すまないが水と何か食べ物を持ってきてくれ」
呼ばれて側にやってきたのは老人と言ったところか。しかしただの老人じゃなさそうだ。立ち方からして彼もそれなりの育ちをしていることがわかるな。だがどう見ても主従関係にしか見えないが。
「こちらをどうぞ」
ローエンと呼ばれた男から何かを受け取り、それを私へと差し出す。一つは水の入ったカップで、もう一つはチョコレートだった。
「食べれますか?」
返事の代わりにそれを受け取ろうと手を挙げようとしたけど、予想以上に衰弱していたのか数センチ動かすので精一杯だった。
「口を開けて下さい」
そう言って彼はカップを私の口元へと付ける。言われたとおり口を開けば、久しぶりの水分が喉へと流れる。そしてその後にチョコレートをひとかけ、口に入れられる。舌の上で溶けて甘さが口いっぱいに広がる。久々の食事に何だか満たされる。
「すまぬな。見ず知らぬと言うのに」
「困ったときはお互い様です」
微笑んだ顔が何処か幼なじみに似ている気がした。今どうしているかとか考えてしまうのは帰りたい願望か。その辺りの感情というものはよくわからないが。
「少し失礼します?」
「ん?」
彼は少し考えた後、私の肩と膝裏に手を置きそのまま持ち上げる。細身の体にそんな力があったのかと感心した。
「ローエン」
「はい、旦那様」
彼は私を馬車の席に着かせる。彼とローエンも乗り込み御者に声を掛けて馬車を走らせる。
「なんのつもりだい?」
水とチョコレートをもらったことは感謝するが突然、馬車に乗せるのはどういう了見だろうか。
「この道を通っているということは、カラハ・シャールに向かわれてるのでしょう」
私たちも向かっているところです。と彼はまた微笑む。
「失礼ながらあなたの今の状態では街へとたどり着くのは困難かと」
「ふむ。間違いないな」
餓死寸前の人間が無事に目的地に辿り着くなど無理だろう。これに関しては返す言葉がない。
「申し遅れました。僕はクレイン・K・シャールと言います」
「……シャール。キミがカラハ・シャールの領主か……」
なるほど、と一人で納得しているとクレインとローエンは目を丸くした。名乗ったからといって、それで領主だとわかったとでもいいたいのか。
「カラハ・シャールはシャール家の統治だろう?」
本に書いてあった。ラシュガルには六家と呼ばれる貴族がいて、シャール家はカラハ・シャールを治めていると。
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