代換品


正直、本当に気まぐれだった

彼女の涙を横で掬ったのも
寂しい彼女を優しく抱きしめたのも、


『河村さん、寂しい』
河｢どうして寂しいんですか。私が横にいるじゃないですか
私じゃ不満なんですか？｣
『そうじゃなくて、、』


戸惑う沙南は次の言葉を探しているようだから俺も黙って次の言葉を待つ


『私多分彼のことわすれられないです』
河｢彼とは、あなたのことを1週間前にこっぴどく振ったやつですか？｣
『そんな言い方……』
河｢何か違いますか？｣
『なにも違くないです！』


そんな涙を零しそうな顔をしないで
君の涙を見るたびに心が張り裂けそうになるから


河｢だからさ、あなたはそんな男のことなんて気にしなくていいんですよ
もう忘れて、何もなかったかのように生きていけばいいんですよ｣
『んな無茶な』


悲しそうに言う沙南の頭を優しくなでる
するとゆっくりゆっくり俺に体重を預けてくる


『私の何がダメだったか未だにわからないんです
彼は私を束縛したけど私は彼を縛りませんでした、家に遅くに帰ってきても笑顔で迎えていましたし家事もすべてやっていました

彼から女の子の香水の香りがしても、夜中に無理やり求められても何も言いませんでした』
河｢そんなの続けていても壊れてしまうでしょう｣


下を向いて彼女の瞳は悲しく揺れていた


河｢あなたは、
本当に彼のことを好きだったんですか？｣
『そりゃ、好きだったからこうなってるんでしょう』
河｢では、どうして彼が帰ってこなくても何も言わなかったのですか、大好きな彼からほかの女性の香りがしても

なぜあなたは彼のことがそんなに大好きといいながら私の手を握っているのですか、｣
『それは』


口籠る彼女にもう思考の暇など与えない
このままだとどんどん悪くなる


河｢沙南、私は結構縛られるのが好きなほうです｣
『え？』
河「だし忙しくても家事はやります

あと、絶対にあなたを一人にしないし夜は抱きしめて寝ますよ」
『そんな、そんな言い方したら』
河｢あなたが次の人を見つけるまでの間だけ｣


うるんだ瞳と目が合う
迷っているような、なにか期待するような

期待しているならもう迷うことなどないでしょう


河｢大丈夫、あなたは俺の事が好きだよ｣

ーーーーーー