あめ玉
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「やっばーい雨降ってきたよー!!」
「えぇ、傘持ってないよー!!」
クラスの女子が突然降ってきた雨に騒ぎ始める。
今朝の天気予報にはちゃんと雨マークがついていたし、折り畳みも持っているため準備は万全だった。
そういえば、あの子は傘持ってるのか……?もし持ってなかったら、オレが颯爽と傘を貸して──。欲を言えば相合傘で──。
なんて考えても仕方ないよな。
「帰るか……」
荷物を手に取り教室を出ると、隣の教室から声が聞こえた。それは紛れもなくあの子の声だった。
「えぇ、掲示物を……ですか?ひとりで?」
「おう、頼むわ」
落ち着いた雰囲気の優しさが隠しきれない声。その声を聞きたいがために、昨年はわざわざ彼女の近くを陣取り、耳をすましたものだった。
我ながら気持ち悪い。
それにしても、担任はあの子が断れない性格だから頼んでいるのだろう。まさに非道ッ……!到底許せることではない。
が、しかし。ここでオレが出ていったところで彼女に「なんだこいつ」と思われるのが関の山だ。ここは我慢だ。
「仕事頼まれたァ!?断れよーもう!!」
「いいのいいの。マミヤちゃん、今日忙しいんでしょ?先帰ってて」
「ったく……!雫、傘持ってねぇのにどうすんだよ」
「何とかなるから大丈夫!」
傘、持ってないのか……。これは千載一遇のチャンスとやらではないのだろうか。よし、待つか。昇降口が一番見やすい図書室がいいだろう。
気味の悪い思考回路をしていることはオレが一番分かっている。だが止まらない……!こうなると、あの子のことしか考えられない。
優しくて笑顔の可愛い天海さん。彼女との接点は特にない。昨年もただ同じクラスだったというだけで、隣の席になったとか、仲が良かったとか、そういうのは一切ない。
だけど彼女が優しいのはオレが一番知っている。教室の花瓶の水を取り替えていたのは、いつも彼女だったし。掃除も委員の仕事も彼女は真剣に取り組んでいた。
もし、仮の話で。彼女と付き合えることになったら、なんて呼ぼうか。天海さん、だと他人行儀すぎるし。雫、だと急に馴れ馴れしすぎる気もする。
「雫……さん」
誰もいない図書室にオレの呟きが染み込んでいく。
ダメ……!これはダメ!呼ぶ度に照れてしまう。そもそも名前に「さん」を付けると夫婦みたいで恥ずかしい。
でも、彼女はオレを「零」と呼んでくれるのだろうか。
──零くん、好きだよ。
いけないっ……!こんな妄想、誰かに覗かれていたら。特にあの子に覗かれていたら恥ずかしくて死んでしまう。
そもそも付き合うためには、告白という手順を踏まないといけないわけで。オレには到底出来そうもない。
参考書を広げシャーペンを手に持っているというのに、あの子のことばかりで一ページも進まない。
そうこうしている内に最終下校時刻が近づいてきた。
まだ終わってないのか?まさかもう帰ってしまったのか?有り得る。少し妄想に耽りすぎた。
慌てて昇降口に向かうと、そこにはちょうどあの子がいた。
あくまでも偶然を装って……。
「あれ?天海さん?」
オレが声をかけると振り返るキミ。
その顔は困惑顔で。
雨が飴玉に変われば笑うのかな、なんて。
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