あめ玉
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「うわ……やっぱり雨降ってる」
空を見上げると、どんより曇っていて一向に止む気配はない。傘を持っていない私は昇降口で立ち往生をくらっていた。
普段なら傘などなくても、一緒に帰る友人に入れてもらうだろう。しかし、今はそれができない。
なぜなら、担任に掲示物の片付けを命じられ、今の今までその仕事をしていたからだ。
まったく私もついていない。
「……しゃーない。濡れて帰るか」
意を決して雨空の下に足を踏み出そうとしたその時。
「あれ?天海さん?」
爽やかな声がした。
振り返ってみると、昨年同じクラスだった宇海零くん。成績優秀、眉目秀麗、才色兼備……。これらの言葉は宇海くんのためにあるのではないかと思うほど、彼は素晴らしい人だった。
「どうしたの?こんな遅くに……もう最終下校時刻だよ」
宇海くんに言われ、携帯電話を開き確認すると確かに午後六時三十分。
そんなに長いこと仕事をしていたのか。
「あ、もしかして傘持ってない?朝は晴れてたもんね」
「うん。お母さんに持っていけって言われたんだけど、持ってこなかった」
「あはは!そっか、じゃあ送ってってあげる」
宇海くんはそう言うと紺色の傘を広げ、私が入ってくるのを待った。
ちょっと待て待て。宇海くんはイケメンだから女の子と相合傘なんてホイホイするだろうけど。私はお世辞にも可愛いとも綺麗とも言えない普通の人間。男の子と、ましてやイケメンの宇海くんと相合傘なんてとんでもない。
「入らないの?」
宇海くんはなかなか入らない私に声をかける。
ここで拒否したら、失礼だよね……。
もし宇海くんが「天海さんがオレの厚意を無下にした」なんて広めたら(絶対ないとは思うけど)、ジ・エンド。まさに人生終了だし。
「じゃ、じゃあ失礼します……」
「どうぞ!」
宇海くんと一つ傘の下で肩を並べて歩く。
「……」
「……」
お互い特に話すこともなく、沈黙が続く。そもそも私達には元クラスメートという接点しかないので当たり前だ。
しかし、宇海は沈黙に耐えられなかったのか私に話しかけた。
「ええっと……いい天気ですね……!」
「は?」
「え!?あ、いや!違うっ……!!ああああ!アウツ……!これはもうアウツ……!」
「宇海くん?」
宇海くんの素っ頓狂な話に思わず間の抜けた声を漏らすと、宇海くんはたちまち真っ赤になり頭を抱え始めた。
「ま、まあ雨は環境に大事だから!!いい天気って言えばいい天気だね!」
「……うぅ」
私が慌てて下手くそなフォローを入れると、宇海くんは真っ赤なまま唸った。ごめんね、フォローが下手で。
また少し沈黙が訪れる。
すると、宇海くんは急に立ち止まった。
「……天海さんは優しいね」
「あ、ありがとう?」
目を細め私を見て微笑む宇海くんに、たじろいでしまう。
「あのさ、こうやって二人で帰る口実を作るために待ち伏せしてたって言ったら……引く?」
「そ、それは……どういう……」
宇海くんの突然の自白に頭が回らない。
「君が傘持ってないの知ってて、担任の先生に仕事任されたのも知ってたんだ。ちょっと小耳に挟んで」
私のすぐ横で頬と耳を紅く染め、自白していく宇海くんに私の頬も熱くなる。
「だから、君が帰るのを待ってたら一緒に帰れるかなって……。でも恥ずかしいし気味悪いだろうから、偶然を装って……こう……」
宇海くんの言葉をそのままに受け取るならば、宇海くんは私に好意を持っているということになるけど。
いや待て、宇海くんが私に好意を持つなんて有り得るのか?元クラスメートなだけで、そもそも仲良かった訳では無いのに。
「はああああ、ごめん。オレ、気持ち悪いよね」
「そ、そんなこと、ないよ」
「ふふっ、やっぱり優しいなぁ」
項垂れた宇海くんを励ませば、宇海くんは熱の篭った目で私を見つめた。イケメンに見つめられてドギマギしない女など存在しない。
「優しさに
「うん……」
宇海くんは私に正面から向かい合うと、自分の手をギュッと握りしめた。
「天海さん、君のことが好きです。もし、少しでもチャンスがあるなら付き合ってください!」
顔がこれでもかというくらい真っ赤で、一世一代の告白というように彼は言った。
イケメンでも告白は緊張するんだなぁ。なんて呑気に考えた私が出した答えは──。
「宇海くんのこと、今まであんまり気にしてなかったから難しいんだけど」
「うっ!!」
「でも、宇海くんの気持ちは嬉しくて……だから、まずはお友達から……」
まずはお友達から。そう、私たちは元クラスメートなだけで友達ですらない、はずだ。
付き合うとか、恋愛に疎い私にはまだよく分からないから。そんな軽い気持ちで受けていいものではなかったような気がするから。
「……お友達から?友達ですら、なかった……!?これはアウツ……紛れもなくアウツ……」
目の前の凄いショックを受けている宇海くんに申し訳なく、居心地の悪い私は手をポケットに突っ込んでみた。すると、飴玉が二つ入っていた。
「宇海くん、これ……今日のお礼」
宇海くんの手にレモン味の飴玉を一つ乗せる。しばらく飴玉を見つめていた宇海くんは、「ありがとう」と細い声で言った。
「これから、アピールして絶対好きになってもらうから覚悟してて」
「うん、待ってる」
宇海くんが飴玉を口に含むと、私たちは再び歩き始めた。
「ファーストキスはレモン味らしいよ」
「それ、迷信でしょ?」
「まあね。でも、レモン味の飴玉舐めてるから今キスしたらレモン味のファーストキスになるよ」
「しないよ」
「くっ!!」
傘がまたひとつ雨粒を弾いた。
1/2ページ