第一節・第一部『異世界魔王降臨!?捕食者と被捕食者』
「ゲーロゲロゲロっ!!零殿!!我輩、今日は最高に充実した一日だったであります!!」
「僕も凄く楽しかったです!」
零「ああ、俺もだ。軍曹、伍長、冬樹君。そして、夏美ちゃん……またね」
「は、はい!また!」
デパートでの騒動を終え、夕暮れ時の自宅前で夏美たちと別れた零は、心地よい疲れを感じながら自宅の玄関をくぐった。
零(ふぅ……。桃華ちゃんには悪いことしたけど、夏美ちゃんとの時間は最高だったな。さて、大賢者に頼んであったコッチの世界の録画してたアニメのチェックでも……)
だが、リビングに足を踏み入れた瞬間、零の黒銀の瞳が鋭く細められた。空気が、僅かに「濁って」いる。
《警告。宅内メインサーバーへの不正アクセスを検知。……個体名『クルル』による、マスターの所有する電子書籍、及び紙媒体の漫画コレクションへの干渉を確認しました》
零「……あ?」
零の口から、低く地を這うような声が漏れる。
《推測。対象は、マスターが宝物のように扱っている漫画全巻の作画データを、ナノマシンを用いて『子供の落書きレベル』に劣化・書き換えるつもりです。現在、書斎の空調を利用して散布を開始しようとしています》
零「…………」
静寂。だが、零の背後からは物理的な圧力を伴うほどの漆黒のオーラが立ち昇っていた。
零「そういや……ラボで簀巻きにしたまま、忘れてたな。あの黄色いゴミ野郎……」
アニオタとしての逆鱗。それは、この魔王にとって最も触れてはならない地雷だった。
零「……あいつ、マジで懲りてねぇな。いいぜ、大賢者。…二度と逆らう気が起きないよう、徹底的に『調教』してやる」
《了解。対象の現在位置を特定。日向家地下基地、予備ラボにて作業中です。――
一瞬、視界が歪んだ。
次の瞬間、零は鼻歌混じりにキーボードを叩くクルルの、すぐ背後に立っていた。
「ク〜ックックッ! さて、あの生意気な工作員さんのコレクションを、全部幼稚園児の落書きに変えて……」
零「随分と楽しそうじゃねえか?曹長」
「ッ!?!?!?」
振り返ろうとするクルル。だが、それよりも早く、零の指先から無数の銀糸が放たれた。
零「逃がさねえよ。――
それは先程までの粘糸とは格が違う、大賢者のスキルによって強化された特殊なアーツ。クルルの手足、関節、そして指先の一本に至るまでが、鋼の如き強度を持つ糸によって完全に、そして一瞬で封じ込められた。
「な、なんだこれ……!?動けねぇ……指一本……ッ!それにお前、なんでここに……!?」
驚愕に顔を歪めるクルル。零は無言のまま歩み寄り、身動きの取れないクルルの顔の横、壁にドンと力強く手を突いた。
至近距離。逃げ場のない「壁ドン」の体勢。
漆黒のパーカーから漂う、圧倒的な魔王の威圧感。
零「……まだ、調教が足りてねぇみたいだな?」
不敵に、そして冷徹に笑う零。
だが、そのあまりの至近距離に、クルルの解析眼が「ある違和感」を捉えてしまった。
(……ク?…待てよ……こいつ、これだけの近距離なのに、男特有の体臭がしねぇ。……それどころか、この首筋から漂う微かな……肌のキメも細かすぎる。……何より…)
クルルの視線が、零の細い喉元に釘付けになる。
そこには、あるはずの「喉仏」が存在しなかった。
(この骨格……まさか………『女』か!)
驚愕の事実に目を見開くクルル。
だが、零は彼が何に気づいたかなどお構いなしに、冷徹な微笑を浮かべた。
零「さて。…動けない体で、朝まで俺の『アニメ100本 一気見』に付き合ってもらおうか。音量は最大、 まばたき厳禁だ。……もちろん、あんたの好きなカレーの歌もBGMに混ぜてやるよ」
「………ククッ!!?お前、マジで『魔王』じゃねーかっ………!!」
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