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第一節・第十部『女帝争奪戦!遂に覚醒!?進化する天才策略家』



「零殿ぉぉぉ!!風邪にはこれに限るでありますッ!我輩特製・ネギ首巻き(ガンプラのランナー付き)で、悪い菌を追い出すでありますッ!!」

ガンダム邸、零の寝室。
昼下がり、軍曹が鼻息荒く、物理的に零の首へ大量のネギを巻き付けようと躍りかかっていた。




零「っ、やめろ、軍曹!!!目に染みる!ってか、そもそもガンプラ関係ねーだろッ!!」
「……零、耐えろ。……宇宙のウイルスは、この『軍用・除菌ガス』で……ゲホッ、……私が……消し去る……」

防護服に身を包んだガルル中尉が、部屋中に白煙を充満させ、逆に全員が激しく咳き込む事態に。



「兄貴、やりすぎだ! 零が窒息するだろうがッ!!」

ギロロの怒号、軍曹のネギ、ガルルのガス。そしてそれらを「不浄ですッ!!」と銀の魔糸で排除しようとする執事シルバ。四つ巴の戦場と化した寝室を、クルルは廊下からニヤニヤと眺め、そっと端末のスイッチを切った。




「……ク〜クックック……。せいぜい、今のうちに体力を使い果たしとけよォ、アホ共…………」





――深夜三時。魔王城に、重い静寂が訪れる。



零「……あー、喉……乾いた……」

昼間のカオスな看病の疲労で泥のように眠りこけていた零が、ふと目を覚ました。知恵熱は下がり、意識は冴えている。
それと同時に蘇るのは秋葉原の夜景と、額に触れたあの熱い感触。




零「?……変な風邪だな」

零がベッドから身を起こそうとした、その時。暗闇の中で、カチリと眼鏡が光った。





「お目覚めかよ、魔王様ァ……」
零「……お前…なんでここにいんの?」
「クク……安心しろよ。あのアホ共なら、俺様が特別に配合した『強制睡眠ガス』で今頃リビングで爆睡中だぜェ?」

クルルは零の枕元に腰掛け、温かいマグカップを差し出した。中身は、完熟のハチミツをたっぷりと溶かし込んだホットミルク。




「喉乾いてんだろォ? ほら、飲めよ。……あんたが寝言で『にぱー☆』とか言わねぇか、俺様ずっと見張ってたんだぜ?」
零「………………見張んな、馬鹿」


零はそのマグカップを受け取った。
深夜の静寂、二人きりの空間。
クルルは零がミルクを啜るのをじっと見つめ、その指先に、不意に自分の指を絡めた。



零「あ?」
「……零。お前さ……いい加減、認めちまえよ?」
零「……何をだよ?」
「あんたのその『風邪』……俺以外には、治せねぇんだよ……!!」


クルルが零の顔を自分の方へ向けさせ、至近距離で囁く。
昼間のような「嫌がらせ」ではない。そこにあるのは、零という存在を、その魂ごと根こそぎ奪い去ろうとする「狂った執着ハッピーシュガーライフ」の熱量だった。
ミルクの甘さと、クルルの声。
深夜の暗闇に、魔王を蝕む「甘い毒」がじわりじわりと浸透していく。






「ほら、口開けろよ。俺様特製の『滋養強壮ハチミツ』だ。これ飲まなきゃ……そうだなァ、明日の朝まで解放してやらねぇぜェ…?」

月明かりだけが冷たく差し込む寝室で、クルルが零の唇に、黄金色のハチミツをたっぷりと纏わせた指先をそっと添えた。



零「はぁ!?ふざけんな!!お前が自分で食えよ!」

零は拒絶を口にする。だが、自分でも驚くほどその声にはいつもの覇気がない。それどころか、クルルの指が唇の端をなぞるたび、背筋を駆け抜ける得体の知れない熱に、思考の回路がパチパチとショートしてバラバラに解けていくような感覚に陥っていた。




零(あ?なんで、俺……こいつを突き飛ばせねぇんだ?おい! シルバ!!智慧之王!!返事しろよ!!)

執事シルバが強制休眠させられているのは理解できる。だが、自身の魂に刻まれたスキルであるはずの『智慧之王レイソフィアロード』までもが沈黙を保っているのは、あまりに不自然だったが反応が無い今、零を守る盾は、どこにも存在しなかった。
クルルは、零が困惑し、視線を彷徨わせる様子を、眼鏡の奥の濁った瞳でじっと観察していた。





「ク〜クックック!!どうしたんだよ、魔王様ァ。身体が震えてるぜェ?……そんなに俺様のハチミツが怖ぇのかよ?」
零「怖くねぇよ!……ただ…その…風邪のせいで、力が入らねぇだけだ…ッ!!」
「なら、大人しく……『あーん』されねぇとなァ?」

クルルが強引に、だが驚くほど優しく、零の唇を割り、その「甘い毒」を押し込んだ。
口内に広がる、濃厚で、暴力的なまでの甘みと香り。脳が痺れるような快感に、零は思わず目を閉じ、クルルの指先を無意識に、熱い舌で迎えてしまった。
火花が散るような衝撃に正気に戻った零は弾かれたようにクルルの手を払い、布団を頭まで被って背を向けた。



零「甘ッ!………ッ、あー!もういいだろ!?早く帰れよ!!今すぐ俺の部屋から消えろッ!!」
「ククッ!!……美味かったろ? 零……」

背後で、クルルが低く、勝ち誇ったように笑う。




「あんたのその『風邪』……もっとじっくり……甘く……俺様が拗らせてやるよォ」

そう言い残し、クルルが部屋を去った後も、零の心臓は壊れたメトロノームのように激しく打ち鳴らされていた。口の中に残る、抗いがたいハチミツの余韻。





零(クソ甘ぇ!こんなのはただの栄養補給だ!この俺が、魔王が………負ける訳、ねーだろ…ッ!!)




零は熱い頬を枕に押し付け、必死に自分に言い聞かせた。
それが、この因果律シナリオの中で最も不器用で、最も深い「?」の始まりであることに、彼女だけが、頑なに目を背け続けていた。






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