第一節・第一部『異世界魔王降臨!?捕食者と被捕食者』
家を出た零は庭の境界線を越え、地下基地への入り口へと歩を進める。
零「大賢者、曹長の居場所は?」
《報告。個体名『クルル』はラボに引きこもり、書き換えの成功を確信して高笑いしています。……なお、
零「……ククッ、そうか。なら、直接引導を渡してやらなきゃな」
一方その頃。
「ク〜ックックッ!!…………ちっ… 防御が硬いなら、中から壊してやるまでよぉ!」
データの書き換えが無理だと判断したクルルは、キーボードを猛烈な勢いで叩きつけ、零の「弱点」を突くための最終兵器を起動した。
「喰らいな工作員さん! 全宇宙のオスがひれ伏す、俺様特製『股間直撃型・高周波ボルト』だぁ! 理屈じゃねえ、生物としての本能を焼き切ってやるぜぇ!」
見えない高周波の衝撃波が、通路を歩く零の股間を正確に狙い撃つ。クルルは勝利を確信し、眼鏡を光らせてニチャアと笑った。……が。
「……あ?」
零は何事もなかったかのように、悠々と歩き続けている。ダメージどころか、眉ひとつ動かしていない。
零「(……やっぱりな。…残念だったな、曹長。俺には、そんなもんついてねーんだよ)」
零は内心で毒づいた。実は女性である彼女にとって、男の急所を狙う攻撃など、蚊に刺されたほどの影響もない。
元の見た目と、このプレイボーイ風の振る舞いのせいで、誰一人として彼女が女だとは気づいていないのだ。
零「(……ま、誰にもバレてねーんなら、このまま『男』として通すのも面白ぇか。混乱する奴を見るのは悪くねぇし)」
そう判断した零は、足音を消し、幽霊のようにクルルの背後へと忍び寄った。
一方のクルルは、モニターに表示される「
「おかしい……。数値が動かねぇ。あの野郎、股間が鉄板で出来てんのか!?それとも、痛みを感じないバケモノ………」
冷や汗を流しながらモニターを叩くクルルの背後に、音もなく影が落ちる。
零「股間を狙うなんて酷いなぁ、曹長」
「ッ!?いつの間に……!」
耳元で囁かれた低く冷たい声。クルルが首が折れるような勢いで振り返ると、そこには漆黒のパーカーを纏い、黒銀の瞳を不気味に光らせた零が立っていた。
「な、なんでだ……!?出力は最大……解析不能……!? お前、まさか本当に男じゃ……」
「あ?……そんなに俺の身体が目当てなら、少し遊んでやるよ」
零が指先を軽く弾くと、ポケットから放たれた「粘糸」が生き物のようにうねり、一瞬でクルルの全身を絡めとった。
「なっ、なんだこの糸……!?強度がケロン星の特殊繊維を超えて……ぎゃあぁっ!?」
抵抗する間もなく、クルルは逆さまに吊るし上げられ、ラボの天井からミノムシ状態でブラ下げられた。
零「ククッ……いい眺めじゃねえか。股間を狙ったお返しに、まずはその『捻じ曲がった根性』から叩き直してやるよ。なぁ、相棒?」
《了解。対象の脳内へ、強制教育プログラム『
「ちょ、やめ……やめろぉぉ! 俺様の陰湿なプライドが、光に浄化されるぅぅぅ!!」
零「いい声で鳴くじゃねぇか。そのままそこで、愛と勇気についてじっくり考えな」
逆さ吊りにされ、脳内で爆音のマーチが鳴り響くクルルを小突き、零は嗜虐的な笑みを浮かべる。
まさに魔王の「調教」タイム。
その姿はまさに、弱者を弄ぶ魔王そのもの。中身が18歳の女子だなんて誰も――そして地獄を見せられているクルルさえも、夢にも思わないだろう。
だが、その時、パーカーのポケットに入れていたスマホ(大賢者が偽装した端末)が震えた。
画面を見ると、送り主は夏美。
『急にごめんね! まだ越してきたばかりだし、もし良かったら私が街を案内してあげようかと思って。……どうかな?』
零「……ッ!!」
さっきまでの冷徹な魔王面はどこへやら。零の黒銀の瞳が、一瞬でアニオタ特有の輝きを取り戻した。
零「(な、夏美ちゃんからのデートのお誘い……!? マジかよ、彼女に街を案内してもらえるとか、前世でどんな徳を積んだんだ俺ぇぇぇぇ!!?しゃあっっ!!)…大賢者、今の予定は?」
《報告。現在、個体名『クルル』の精神再教育(調教)の進捗率は15%です。継続しますか?》
零「中止………いや、このまま放置してく。大事な用が出来た。」
零は吊るされたまま白目を剥いているクルルを一瞥し「こいつはこのままでいいや」と完全に意識からシャットアウト。
背後で「クックッ……待てぇ……これじゃマジの放置プレイじゃねーか……」というクルルの力ない声が響いたが、今の零には一切届かない。
鼻歌混じりに零はラボを飛び出した。
集合場所のデパートには、少し照れくさそうにする夏美だけでなく、ちゃっかり付いてきた冬樹、軍曹、そして夏美を護衛する名目で殺気を放つギロロも合流していた。
零「お待たせ、夏美ちゃん。わざわざ誘ってくれてありがとな。……楽しみにしてたぜ」
零は中性的な顔立ちに少しだけ余裕のある笑みを浮かべ、プレイボーイ風に挨拶する。
「ううん、こちらこそ! 零さん、こういう場所ってあんまり来ないかなって思って。……あ、ボケガエルたちも付いてきちゃったけど、いいかな?」
零「あぁ、もちろん。賑やかなのは嫌いじゃねぇし。君もいるから、ね?」
「ひゃぅっ!!?」
夏美が顔を赤らめるのを横目に、零の内心は(夏美ちゃんマジ天使! ギロロの殺気が心地いいぜ、これが『本物』の距離感か!)と狂喜乱舞していた。
一行はデパートの喧騒の中へと足を踏み入れる。
「まずはあっちのフロアに行ってみない? 零さんに似合いそうな服とか、いっぱいあると思うし!」
零「夏美ちゃんが選んでくれるなら、俺は何でも喜んで着るぜ?」
プレイボーイ全開で夏美をエスコートする零。その背後で、ギロロが嫉妬で今にも爆発しそうな顔をしているが、零の頭の中は「推しとの休日」で一杯だった。
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