第一節・第八部『迫る!神の審判!!–魔王と参謀の究極進化!!–』



「ひゃっほーっ! お祭りであります! 地球ペコポンの夏の風物詩、金魚すくいに屋台メシ! 侵略予算を全額投入して、胃袋から制覇するでありますッ!!」

浴衣姿のケロロが、綿菓子を片手に境内を縦横無尽に駆け回る。今日は夏美や冬樹、桃華、さらにはケロロ・ガルル両小隊が勢揃いした、年に一度の夏祭りイベント。魔王城(ガンダム邸)から繰り出した一行は、夜店の灯りに照らされ、色とりどりの浴衣に身を包んでいた。


零は、黒地に銀の波紋が流れるクールな浴衣を纏い、屋台の喧騒を眺めていた。その数歩後ろには、銀髪を後ろで一つに結び、隙のない着こなしの浴衣姿の執事・シルバが控えている。彼は、零に向けられる不躾な視線やナンパを、銀の瞳による無言の威圧(射殺)で排除し続けていた。




「零さん、その浴衣……やっぱり似合いますね! おじ様にも負けず劣らずの素晴らしさですよ! ってゆーか、一期一会?」

モアが頬を染めて見惚れ、その後ろでは「冬樹くんと二人きりの夏祭り……!! でも零さんも素敵……私はどちらを選べばいいの!?」と妄想を爆発させる桃華。それを「……桃っち〜、後ろにボクらも全員いるですよぉ〜」とタママが冷めた目で見ていた。



「…………零。貴殿の浴衣姿。……あぁ、私の『ハッピー』が溢れそうだ。この瞬間を、銀河の記録装置ストレージに永遠に刻みたい……」


ガルル中尉が、浴衣の袖から隠しカメラを取り出そうとしてギロロに羽交い締めにされていた。



「……零よ、すまん。兄貴は俺が抑えておく。師はゆっくり楽しんでくれ」

執事服を脱ぎ、浴衣姿となったギロロが深く溜息をつく。



零「はは、賑やかでいいじゃねーか。……な、夏美ちゃん?」
「そうね。……あんたたち、今日だけは『魔王』も『宇宙人』も忘れて、普通に楽しみなさいよ?」


夏美が微笑み、皆が煌びやかな屋台に目を輝かせる。まさに、平和の絶頂。
だが、零がシルバから手渡されたリンゴ飴を口にしようとした、その瞬間だった。





――カチッ。






世界から、すべての「音」が消え去った。
風に揺れていた提灯が空中で静止し、弾けるはずの花火が火花の形のまま夜空に張り付く。「わぁっ!」と笑っていた夏美の表情が彫刻のように固まり、走り回っていた軍曹が片足を上げたまま空中に固定された。
冬樹も、桃華も、境内の群衆も、すべてが「静止した画像」のように動かなくなった。



《――警告。空間内の「時間軸」が強制固定されました。……個体名:日向夏美、西澤桃華を含む、地球上の全生命体の意識が凍結フリーズ。……抵抗できているのは、マスターと、私、そして……》
「……クク………………魔王様よぉ、これは……俺様のバグじゃ……ねーぞ……」


クルルが、端末を抱えたまま膝をつき、吐血せんばかりの喘ぎを見せている。その隣では、ガルルが重力に抗うように、震える手で銃を抜き放とうとしていた。



「…………零よ。…………来たぞ。……本部の……『掃除人』だ……ッ!!」


静止した群衆の向こう側。誰も動けないはずの参道から、カツン、カツンと、無機質な軍靴の音が響いてきた。
白い装甲に身を包んだ、顔のないケロン人たちが十数名。その中央に立つ、透き通るような青い肌の指揮官が、零を見据えて冷たく告げた。




「――地球人・鷹柴零。……および、禁忌の演算体・シルバ。……貴様らの存在は、宇宙の因果律シナリオに反する。……これより、『世界の初期化フォーマット』を開始する」



静まり返った夏祭りの境内に、戦いの幕が、残酷なまでに、突如として切って落とされた。



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