第一節・第七部『魔王城と銀の崩壊!!』


「……零さん。あの、みんな……あんなに顔を真っ赤にして吊るされてるけど、本当に大丈夫なの?」

翌朝。心配で様子を見に来た冬樹と夏美は、リビングの光景に絶句した。天井からは、魔王の逆鱗に触れたシルバ、クルル、ガルル、そして軍曹が、一列に整然と、いまだに「逆さ吊り」にされていた。



「……あ。…………あぁ……。マスターの……この氷のような視線。魂が、隅々まで洗われるようでございます……ッ!!」
「ク〜クックック……! 懐かしいぜぇ…………。この『絶対零度の殺意』こそ、俺様の魔王サマだぁ……ッ!!」
「これも…ハッピーの代償である……」

恍惚とした表情で身悶えする執事と天才。
そしてそれをただ受け入れる最強の軍人。
夏美は、手にしていた掃除機をそっと床に置いた。



「……ダメだわ、冬樹。この家、もう『普通』じゃないわ。っていうか、アンタたち! 吊るされて喜ぶなんて、……本当にど変態の集まりねッ!!」
零「ま、お仕置きなんだからいいだろ。夏美ちゃん、昨日は本当に悪かったな。明日には、こいつら全員『完璧な奴隷』に戻しとくからさ」


夏美には困ったような、それでいて年相応に優しい笑顔を向けていた零。
しかし、吊るされた四匹に視線を戻した瞬間、その瞳は一変して冷徹な魔王のそれに切り替わる。その温度差に、軍曹だけは「ゲロォッ!?我輩だけは変態の仲間入りは御免でありますッ!モア殿ぉ、タママ二等ぅ、助けてぇ!!」と必死に命乞いを繰り返していた。

初期に見せた「魔王」としての圧倒的な支配。それが、この賑やかでカオスな日常の底流に、今もなお牙を剥いて健在であることを示し、魔王城の騒乱は一時の、しかし重苦しい静寂へと収束していった。














【エピローグ:深淵からの監視】

その夜。
静まり返った魔王城の屋根――ガンダム頭部のさらに上空。
厚い雲に隠れ、目に見えない「不可視の観測機」が、零の自宅を冷酷に見下ろしていた。




『――観測完了。…………個体名:鷹柴 零。…………種族:地球人(特異点)。…………保有能力:高次演算・空間干渉・精神支配。……個体名:シルバ、およびケロロ小隊、ガルル小隊を完全に掌握済み』


無機質な、だがガルル中尉の声すら甘く感じるほど冷徹な電子音声。




『……ケロン軍本部に報告。日向家の隣に現れた「魔王」は、既存の侵略軍では対処不能。……これより、「第三のフェーズ:完全排除」の執行を推奨する。……ターゲットを、魔王と、その執事(シルバ)に固定』


雲の切れ間に、巨大で禍々しい影が横切った。
それは、ガルル小隊をも「旧式」と断じる、ケロン星が秘匿し続けてきた「真の粛清部隊」の先遣隊であった。
自慢の「城」で、シルバに夜食のアニメ鑑賞セットを用意させている零は、まだ知らない。
自らの「遊び場」に、さらなる巨大な混沌が、音もなく忍び寄っていることを。





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