第一節・第七部『魔王城と銀の崩壊!!』
「こんにちは! 零さん! お隣に『本物の悪魔みたいな執事』がいるって噂、本当……?」
とある日の夕方。日向冬樹が、好奇心の塊のような瞳をキラキラ輝かせながら、要塞化した魔王城(零宅)の門を叩いた。
リビングのソファでポテトチップスを齧っていた零は、隣で微動だにせず直立不動を貫く銀髪の影を親指で指し示した。
零「ああ、冬樹か。……こいつがシルバだ。ほら、シルバ、挨拶しろ。……あ、お前いま『自粛中』だからな。悪魔っぽい威圧は禁止だぞ。特に地球人にはな」
零の軽い命令に、シルバは銀の瞳を伏せ、慇懃無礼なまでの角度で深く頭を下げた。
「……御意、マスター。……私は、ただの……『布』の質感を愛でる、しがないコスプレ愛好家でございます。……にぱ〜☆(超弩級の棒読み)」
「……………えっ?」
零「っ!!? ……ゲホッ、ゴホッ!!!」
冬樹が凍りつき、零はあまりの衝撃にポテトチップスを喉に詰まらせた。
《――告。個体名:シルバは現在、マスターの「自粛」という命令を極限まで拡大解釈中。……「悪魔らしさ」を隠蔽するため、あえて「無能な変質者」を演じることが最適解であると誤認しています》
零「はぁ!? なんでそうなるんだよ!!」
智慧之王の無慈悲な解析に、魔王様も動揺を隠せない。
「ク〜クックック……! 見ろよぉ、あの銀髪野郎。自粛しすぎて脳みそが沸騰してやがるぜぇ……ッ!!!」
物陰からクルルが腹を抱えて笑い転げ、軍曹が「シルバ殿! その語尾の使い方は間違っているでありますッ! もっと魂を込めるのでありますッ!!」と、なぜか熱血な演技指導を始めた。
「……でも、あの、シルバさん? その……背後から漏れ出てる不気味な銀色のオーラとか、足元が微妙に数センチ浮いてるのは……?」
冬樹の鋭すぎる指摘に、シルバは冷や汗をダラダラと流しながら、必死で地面を「踏み締める」動作を繰り返した。
「……こ、これは、最新の……健康サンダルの効果でございます。……お、オカルト……? 悪魔……? ……そんな非科学的なものは、ここには存在しません。……そう、すべては……『気合』の問題……ッ!!(膝をガクガクさせながら)」
零「……いや、無理があるだろ」
零が遠い目をして呟く。
さらに、ガルル中尉が「シルバ! 自粛とは耐え忍ぶことだ! ほら、このガンプラのランナー(枠)を口に咥えて、一切の言葉を発するなッ!!」と、これまた間違った軍隊式の精神修養を強要し始めた。
数分後――。
そこには、口にプラスチックの棒を咥え、必死に「普通の人間」のフリをしながら、冬樹の質問に全力のジェスチャーで答える「世界一残念な銀髪美形」の姿があった。
「……零さん。……あの人、大丈夫なのかな? 色んな意味で怖いんだけど……」
冬樹が引き気味に耳打ちする。
零は、シルバが軍曹たちに「もっと間抜けな顔をするであります!」と弄られ、それに「…………(マスターのため……ッ!)」と必死に応じている光景を見て、深く深く溜息をついた。
零「……シルバ。……お前、変わっちまったなぁ」
「…………(コクコクッ!!)」
かつての孤高で冷酷な「原初の悪魔」の面影はどこへやら。
魔王城の執事シルバは、自粛の意味を致命的に履き違え、名実ともに「ケロロ軍曹の世界」という名のカオスな泥沼に、どっぷりと浸かり、染まりきってしまったのであった。
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