第一節・第六部『魔王城、爆誕!!!そして現れる銀の守護者!!』


次の日の朝。


「ちょっと、零さん!!? 結局この家、どうなってるのよ……えっ?」

要塞化した「魔王城」に怒鳴り込んできた夏美は、玄関で言葉を失った。扉を開けたのは、いつものボケガエルたちではない。銀の瞳を細め、優雅に頭を下げる、銀髪の超絶イケメン執事だった。



「――ようこそ、日向夏美様。マスターより、貴女の来訪を最優先で迎えるよう仰せつかっております。……さぁ、こちらへ」
「え………………っ、あ、はい……(えっ、何このイケメン!? 零さんの親戚!!?)」

呆然とする夏美がリビングへ案内されると、そこにはソファで優雅に寛ぐ零がいた。



零「よぉ、夏美ちゃん。こいつは、まぁ……俺の右腕みたいなもんだ。大賢者、夏美ちゃんに最高のアフタヌーンティーを。……もちろん、彼女の好きなサツマイモのスイーツを添えてな」
「御意、マスター。……夏美様、本日届いたばかりの極上の茶葉をご用意いたしました」

流れるような動作で椅子を引き、夏美をエスコートする大賢者。その洗練された所作は、付け焼き刃の礼儀作法では到底届かない「完成された美」を体現していた。



「あ、ありがとうございます……。なんだか、零さんの家じゃないみたい……」
零「はは、だろ? 夏美ちゃんはいつも頑張ってるんだから、たまには俺たちの城でゆっくりしてってよ。な?」
「左様でございます。貴女の凛とした美しさは、この城の彩りに相応しい」

零の不敵な笑みと、大賢者の銀色の眼差し。二人の「超絶イケメン(うち一人は男装である)」に挟まれ、夏美は「っ!!? ……な、何なのよ二人して! 恥ずかしいじゃない!!」と顔を真っ赤にしながらも、まんざらでもない様子で極上のスイーツに舌鼓を打つのであった。
……そんな微笑ましい光景を、リビングのドアの隙間から「血の涙」を流しながら覗く三つの影があった。




「おのれぇぇ! 零殿とあの銀髪野郎、二人で夏美殿を口説き落としているでありますッ! 我輩、完全に空気でありますぅう!!」

軍曹がプルプルと震えながら拳を握りしめる。



「…………クククッ……あのアフタヌーンティー、俺様の淹れるインスタントコーヒーより100倍香りがいいぜぇ……。面白くねぇ! 完璧すぎて隙がねぇ……ッ!!!」

クルルが呪詛を吐きながら端末を叩くが、大賢者の鉄壁のセキュリティの前にはハッキングの糸口すら見つからない。



「………………軍曹殿。曹長殿。……認めざるを得ん。あの『銀』は、我ら三人が束になっても勝てぬ、マスターの理想を具現化した存在。……だが、このままでは我らの居場所が……!!」

ガルル中尉が、軍人としてのプライドをかなぐり捨てて二人に密談をもちかける。



「「「………………打倒、銀髪野郎ッ!!!」」」



こうして、かつての敵と味方が手を組み、「どうにかして銀髪野郎のミスを誘い、マスターに叱られる無様な姿を晒させる」という、極めて次元の低い秘密結社が結成されたのである……。

場面は代わり
夜の帳が下りた魔王城(零宅)のリビング。
嵐のような夏美の訪問が終わり、静寂が戻った室内で、零はソファに深く腰を下ろしていた。傍らには、微動だにせず控える銀髪銀眼の執事。
廊下では、掃除機を抱えたまま魂が抜けたような軍曹と、不貞腐れて端末を弄るクルル、そして何故か壁に向かって正座し精神統一をしているガルルが、障子の隙間から(和室ではないがそんな勢いで)リビングの様子を伺っている。




零「……なぁ。いつまでも『大賢者』って呼ぶのも、外聞が悪いし、お前自身も味気ねぇだろ?」

零が不意に投げかけた言葉に、銀の執事はピクリと眉を動かし、吸い込まれるような優雅な所作で深く頭を下げた。



「……滅相もございません。マスターに授かったその名こそ、私の存在理由であり、至高の誇り。……ですが、もし……もしマスターが、この私に新たな『音』を与えてくださるというのであれば……」

その銀色の瞳が、かつてないほどの期待と、深淵なまでの忠誠心で微かに揺れる。



零「ん〜、じゃあさ。安直かもしれないけど、お前のその綺麗な銀髪と瞳に免じて……今日からお前の名前は『シルバ』だ! ……どうだ?」

その瞬間。零の脳内に、これまでにないほど強烈なシステムメッセージが鳴り響いた。



《――告。個体名:シルバへの命名を確認。……魂の系譜が確定し、魔素およびエネルギーの循環率が爆発的に向上。ユニークスキル「大賢者レイワイズマン」の進化を確認。……成功しました。……究極能力アルティメットスキル智慧之王レイソフィアロード」が、個としての自我を完全に確立しました》

リビングに銀色の柔らかな光が溢れ出した。執事――シルバの姿が、より鮮明に、より「高位の魔族」としての圧倒的な実体感を増していく。




「……シルバ。…………シルバ、でございますか。……あぁ、なんと…………なんと甘美で、気高い響きか…………ッ!!」

シルバは感極まった様子でその場に跪き、零の足元でその裾に顔を寄せた。




「……このシルバ、この命、この魂。すべてを、我が唯一無二の主、鷹柴 零様に捧げましょう。……あぁ、マスター……愛しております……ッ!!」
零「ちょ、おい! 喜びすぎだろ! 暑苦しいぞ、シルバ!」

零が照れ隠しに足を引こうとするが、シルバはその足首を壊れ物を扱うような手つきで支え、恍惚の表情を浮かべている。

その様子を、廊下の隙間から見ていた三匹。



「………………名前……。名前を貰ったでありますか……。我輩たち、名前どころか『バカ』とか『ボケガエル』とか呼ばれているのに……ッ!!」

軍曹がガンプラの箱を抱きしめて号泣する。元々「ケロロ」という立派な名前はあるのだが、嫉妬のあまり冷静な判断力は宇宙の彼方へ消え去っていた。



「……クク…………。名付けによる魂の固定かよ。……勝てるわけねぇだろ、そんなチート……ッ!!」

クルルが悔しげに爪を噛み、その不条理なまでのスペック差に毒づく。

ガルル中尉に至っては、鋭い眼光をシルバに向け、
「…………シルバ。……最強のライバル(?)の名を、私は一生忘れんぞ……!!!」
と、軍人としての本能で、新たな強敵への決闘を申し込むような気迫を見せていた。

こうして、銀の執事は「シルバ」という名を得て、名実ともに魔王城の「正妻(自称)」の座を盤石なものにしたのである。





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