第一節・第一部『異世界魔王降臨!?捕食者と被捕食者』


零「おぉ、地下基地ってのはマジだったんだな。こいつは驚いた」

零は首を鳴らし、あえて傲慢な態度で基地の設備を見渡した。懐疑的なクルルを黙らせるには、弱みを見せず「格上」を演じるのが得策だと判断したからだ。



「さあさあ、皆の衆! 本部からのエリート工作員、零殿の到着であります!」

ケロロの能天気な号令とともに、二人のケロン人が姿を現した。一人は全身赤色で傷跡のある、いかにも軍人然とした男。もう一人は黒と白の二頭身で、可愛らしい笑顔を浮かべた子供のような隊員だ。


「……貴様が、本部からの工作員だと?」

赤いケロン人——ギロロ伍長が、鋭い眼光で零を射抜く。



「本部からの連絡など無かったぞ。それに……貴様からは地球ペコポン人の匂いしかせん!そして俺の勘が『危険だ』と告げている!その力、ココで証明してみせろ!」
「まあまあ、伍長さん!軍曹さんが言うなら、きっとすごい秘密兵器を持ってるんですよぉ」

タママ二等兵が目を輝かせて近寄ってくる。



「零さんでしたっけ? お近づきの印に、ボクのお菓子あげちゃいますぅ♪……あ、でもボクより目立ったら、その時は『嫉妬玉』をぶち込みますからね?」
零「(……どいつもこいつも)…あぁ、よろしくな。俺も本部の命令で忙しいんだ。ギロロ伍長、だったか? あんまり疑うと、上への報告に響くぜ?」

零が鼻で笑って見せると、ギロロは「ぐぬぬ……」と唸りながら拳を握りしめた。そこへ、クルルの嫌味な笑い声が重なる。



「ク〜ックック……。まあ落ち着けよ。工作員さんの『糸』の性能、俺様の実験室でじっくりテストさせてもらえば済む話だろぉ?」

不穏な空気が頂点に達しようとしたその時、頭上のハッチが勢いよく蹴破られた。




「ちょっと! アンタたち、また勝手なことしてんじゃないでしょうね!?」

怒鳴り込んできたのは、ピンク色の髪をなびかせた少女、日向夏美だった。



「ボケガエル! お隣の空き家に引っ越してきた人が基地に入っていくのが見えたんだけど、どういうこと!? 善良な一般人を巻き込むなっていつも言ってるでしょ!」
「ゲロォ!?な、夏美殿…!!?」

夏美の視線が零を捉える。零は「大賢者の欠片モホウシャ」をフル回転させ、夏美への精神操作が維持されているかを確認する。



「あ、アンタは……今日越してきた……。ちょっと、こんな怪しいカエルたちの口車に乗せられちゃダメよ! 早く地上に戻りなさい!」
零「……悪いな、お嬢さん。でもあんたが心配するような状況じゃねえよ」

零がぶっきらぼうに言い放つと、夏美は呆気にとられたように目を見開いた。



「はぁ!? アンタ、正気なの!? こいつら宇宙人よ!?」

夏美の怒声、そしてギロロの殺気。
そんな風景を見ながら零はフッとどこか影のある不敵な笑みを零した。



「そんな怖い顔すんなよ。夏美ちゃん。せっかくの可愛い顔が台なしだぜ?」

零はスッと夏美との距離を詰め、その瞳をじっと覗き込んだ。パーカーのフードを少しずらし、整った顔立ちを強調しながら、わざとらしく甘い吐息を混ぜる。



「俺はただの協力者パートナーさ。……あんたみたいな綺麗な子がいる家を、このカエルどもに荒らさせたくないんでね。ボディーガード、って言った方が伝わるか?」
「な、なによ急に……。ボディーガードって……」

至近距離で見つめられた夏美は、零の予想以上の「イケメン(風)オーラ」に毒気を抜かれ、顔を赤くして後ずさった。精神操作の影響もあり、彼女の中で零は「怪しい隣人」から「ちょっと強引でキザなイケメン」へと上書きされていく。



零「……ま、そういうことだ。お嬢さんの安眠は俺が守ってやるから、今日は大人しく引き下がってくれよ。な?」
「……っ、もう! 勝手にしなさいよ! その代わり、変なことしたらタダじゃおかないんだからね!」
零「もちろん。気を付けるよ、夏美ちゃん」
「っ!!!」

その時、零の背後から、凄まじい熱気が放たれる。



「……貴様ぁ……! 夏美に……夏美に何をしたぁぁぁ!!」

ギロロが嫉妬の炎を燃やし、サブマシンガンを構えて咆哮する。




「工作員だか何だか知らんが、夏美をたぶらかす不届き者は、この俺が万死に値する刑に処してくれる!」
「ちょっとギロロ!やめなさいよ!」
零「チッ、面倒な奴だな……」

零が糸を構えようとしたその時、基地内のスピーカーからノイズ混じりの不敵な笑い声が響き渡った。



『ク〜ックックッ……。いい熱気だぜ、先輩。だがそいつの相手は、俺様のほうが先でねぇ……』

基地の照明が怪しく明滅し、モニター群が一斉に不気味な文字列を羅列し始める。




『「工作員」だか何だか知らねーが、俺様のネットワークに「嘘の記憶」を書き込んだ代償は高いぜ?今、お前のその頭の中に……俺様特製の「超高度電脳ウイルス」を直接ブチ込んで、お前の知識の断片、一つ残らず解析ハックしてやるよぉ!』
「な、何をしているでありますか!!?クルル曹長!やめるであります!」
零「おいおい、赤いのも黄色いのも、喧嘩っ早くて敵わねぇなぁ、たくっ…」


零は肩をすくめながら呆れた声で言い放つ。ギロロの銃口が火を吹き、クルルの電子攻撃が脳内を侵食し始めようとしている。




『ク〜ックックッ……。工作員さんよぉ、その頭ん中、空っぽにしてやるぜぇ。俺様の電脳ハッキングからは、どんな高度なAIを積んでようが逃げられねーよぉ!』

「大賢者の欠片」という未知の存在こそ察知していないものの、クルルは零の脳波に不自然な「演算領域」があることを突き止め、そこへ特製の電子ウイルスを流し込んだ。
だがーーー



《告。個体名『クルル』による精神浸食を確認。事前にマスターのアニメ知識で作成していた防御壁を展開……成功。……解析。……敵対プログラムの構造を完全に把握しました。逆ハッキングを開始します》
『……は?逆ハック……だと……!?』

モニター越しに見ていたクルルの表情が凍りついた。彼が送り込んだウイルスは、零の脳に触れた瞬間、逆に「大賢者」に取り込まれ、数千倍の速度でクルルのラボへと送り返されたのだ。



『バ、バカな!? 俺様のファイアウォールを紙切れみたいに……ッ! なんだこの演算速度は!? 宇宙ケロン星の規格を越えてやがる……!』

クルルのラボにあるスーパーコンピューターが、見たこともない複雑な数式で埋め尽くされ、制御不能に陥る。オーバーヒートを起こしたマザーボードから火花が散り、基地全体に警告音が鳴り響いた。




「おい、クルル!何を遊んでいる!さっさとその男を……」

怒鳴るギロロだったが、次の瞬間、ラボの全モニターに「黙れ(Shut Up)」という文字と共に、大賢者が生成した精神圧プレッシャーが映像信号として出力され、それは的確にギロロに襲い掛かる。



「……ぐっ!?な、なんだ、この威圧感は……!」

殺気そのものをデータ化したような衝撃に、百戦錬磨のギロロですら気圧され、銃を下ろしてしまう。



零「あぁ、悪いね。俺の『相棒』はちょっと独占欲が強くってよ。勝手に中を覗かれるのが大嫌いなんだ」

飄々とした零は、火花を散らすスピーカーに向かって冷たく言い放つ。クルルは悔しそうに歯ぎしりしながらも、初めて「未知の恐怖」を感じていた。



『ク……ククッ……。おもしれぇじゃねーか……。工作員なんて肩書き、今の性能を見る限り……真っ赤な嘘だろぉ?』
零「どうぞ、お好きに。んでもって……悪いな、曹長。覗き見した代償は、高くつくぜ?」

パチンっと零が指を鳴らした瞬間、零の脳内に冷徹なシステム音声が響き渡る。



《解析完了。個体名『クルル』のメインサーバーより、全ケロン軍軍事データ、及び秘蔵レシピ『宇宙一の超絶激辛カレー・プロトタイプ』の全権限を奪取しました。これらを代価イケニエとして、エクストラスキル『大賢者の欠片モホウシャ』の個体進化を実行します》
『……は? データの消去じゃなく……『奪取』だと? ククッ、何をするつもり……ぎゃあああああああ!?』

クルルの悲鳴が基地にこだまする。彼の全財産とも言える膨大な知識データが、零という「器」の中へ猛烈な勢いで吸い込まれていく。直後、零の全身から、これまでの比ではない神々しくも禍々しいオーラが噴き出した。



《––成功しました。ユニークスキル『大賢者レイワイズマン』へと進化を完了。これより全ての事象を完全掌握します》
零「あー……スッキリした。力が馴染むぜ」
『クッ…まだ……』

零が首を回すと、敗北に震えるクルルが、最後の悪あがきとして強力な破壊ウイルスを再送してきた。
だが、進化した零はそれを一瞥すらしない。




零「無駄だって。そんなの、俺の『相棒』が食っちまうよ」

飛来したウイルスは、零の影から伸びた黒い霧に一瞬で捕食された。それどころか、大賢者はクルルの脳内ネットワークを逆走し、特殊な「呪いプログラム」を深く刻み込んだ。



『……ッ!? な、なんだ、この音は……!? 脳が、脳が勝手に歌い出しやがる……ッ!』

クルルの耳元で、爆音の「愛と勇気の使者アンパンマンの歌」が流れ始める。零と目が合うたびに、正義の味方の旋律が彼の陰湿な思考を強制停止させるという、地獄のような仕置き。



零「……お前が俺に勝つのは、100億年早ぇんだよ!!!」

零が不敵に言い放つと、背後に現れた巨大な魔王(だがスライムテイストである)如き幻影が、基地の空気を一変させた。



「ひ、ひぃいっ! 完全に魔王の降臨であります! 工作員なんてレベルじゃないでありますよ!」
「な、なんだこのプレッシャーは……。本部の秘密兵器はここまで進化していたのか……!」
「零さん、カッコ良すぎですぅ……ボク、もうメロメロですよぅぅぅ!」

ケロロたちは恐怖と畏敬で震え、腰を抜かしている。一方で、後ろで様子を伺っていた夏美だけは、あの「嫌なカエル」を圧倒した零の姿に、うっとりと頬を染めていた。



「……すごい。零さん、強くて頼りになる人だったんだ……!!!」

まさに、日向家地下基地は一人の「魔王」によって完全に支配された瞬間であった。




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