第一節・第五部『魔王再臨-絶対恋愛障壁の惨劇(ヒグラシ)-』



思い立ったら即実行。それが魔王・零の流儀である。
移動の手間を省くため、大賢者の権能により地下ラボを一瞬にして変貌させた。そこは零が偏愛する鬱アニメの金字塔『ひぐらしのなく頃に』を、完全防音・完全密室・さらには五感を刺激する4DX仕様で上映する特設劇場と化した。



「ちがっ! 零さん!? そうじゃなくて、ですね……!!」
零「あ、夏美ちゃんは避難しててね! 精神衛生上、よろしくないからさ」

「空間転移」で抗議する夏美を外へと逃がす。モアも逃がそうとしたが、「私はおじ様から離れません! ってゆーか、一蓮托生?」と固い決意を見せたため、特例で続行を許可した。



零「いいか、お前ら。この『雛見沢』という村で起こる惨劇から、一秒たりとも目を離すな。中尉、曹長。愛ってのはな、一歩間違えれば『疑心暗鬼』なんだよ。……直に訪れる鉈のキレを、しっかり目に焼き付けろよ?」


零の合図と共に、ラボの照明が落ち、湿り気を帯びた闇が広がる。四方八方から、鼓膜を震わせる「ひぐらし」の鳴き声が一斉に響き渡った。



「……零。これが、貴殿の言う『愛の厳しさ』か。……しかし、この声、嫌な予感プレッシャーしか感じないのだが……」
「ク、クク……雛見沢…………。この村、俺様のラボより陰湿な空気を感じるぜぇ……」


ガルルは微かに肩を震わせ、クルルは珍しく冷や汗を流しながら、惨劇の幕開けを見守る。



数時間後――。

「零殿……!!! この『嘘だッ!』という叫び……我輩、身に覚えがありすぎて心臓が痛いでありますぅ……!!!」
「お、おじ様……大丈夫ですよ! モアがついてます! で、でも……ってゆーか、疑心暗鬼ぃぃ!!!」
「軍曹さぁぁぁん! 足音が……後ろから足音が聞こえるですぅ〜!!!」

梨花ちゃんの「にぱ〜☆」の裏に潜む過酷な運命に戦慄するモア、オヤシロ様の足音に取り憑かれそうになり、涙目で軍曹の背中に隠れるタママ。だが、最も深刻なダメージを負ったのは、やはりあの二匹であった。



「……………………信じる、ということの、難しさ。……もし、私が零に対して、僅かでも疑念を抱いたなら…………私はL5を発症し…………この爪で、己の喉を…………っ!!」

ガルルは、自分の首筋を掻き毟る妄想(?)に囚われ、ガタガタと震え出す。



「ク……クク…………『雛見沢症候群』? …………あぁ、そうか。俺様が零を好きで堪んねぇのは、……俺様の脳内に、変な寄生虫が湧いてるからなんだなぁ! そうなんだろぉ、零…………っ!!」

クルルは、自分の制御不能な恋心を「寄生虫による病気」として合理化しようと試み、結果として精神をこじらせて狂ったように笑い始めた。




「………………あの、零さん」

ラボの外で、漏れ聞こえる絶叫に耐えかねた夏美が、青ざめた顔で声をかけてきた。



零「どうしたの、夏美ちゃん。君も観たい?」
「え、いや、そういうんじゃなくて……。さすがにやりすぎじゃない? あの二人、もう『愛』とか『告白』以前に、『人間不信』のどん底に落ちてるんですけど……」


零はきょとんとして首を傾げた。


零「……ん? いやいや、これが『ひぐらし』の醍醐味だよ。惨劇を乗り越えた先に、本当の絆があるんだって! な、大賢者!」
《――肯定。現在、二人の「依存心」は強烈な「恐怖」と混ざり合い、マスターを「この惨劇の世界で唯一信頼できる絶対神」として再構築中です。……再教育マインドセットの効果は絶大です》



魔王の慈悲は、今日も今日とて、対象の精神をあらぬ方向へと作り変えていくのであった。



2/3ページ
スキ