第一節・第四部『紫の来訪者・再来』


ラボに満ちる、心臓の鼓動すら聞こえそうなほどの静寂。
顔を真っ赤にして震えるクルルに対し、零はふむ、と一つ頷くと、迷いのない足取りで彼に歩み寄った。



「おまっ!? 何を……ッ!!」

逃げようとするクルルの額に、零は有無を言わせぬ所作でそっと手を当てた。



零「悪かったな、曹長。……さては、例の『不屈のマーチアンパンマン』を聴かせすぎて、脳がバグったか? 今、呪いプログラムを外してやるからな」
「…………は?」
零「それと、さっきの『好きで堪んねぇ』ってやつ……。それ、新作ゲームの限定版のことだろ? お前、ガンプラより絶対ゲーム派だもんな。分かるぜ、俺も発売前日はそんなテンションになるし」

零の、あまりにも「慈愛」に満ちた、しかし完膚なきまでに的外れな謝罪。
その場にいた全員の心が、一糸乱れぬコーラスで『違う、違う、そうじゃ、そうじゃなーい!』と絶唱した瞬間だった。




《…………マスター。一応、補足します。個体名:クルル曹長の先程のステートメントは、99.9%の確率で「恋愛感情の吐露」と判断されます。……脳内のドーパミンが……》
零(待てって、大賢者。こいつ、さっきまで中尉さんの排除データ作ってたんだぞ? 完全にオーバーワークとマーチの聴きすぎでテンションおかしくなってんだよ。……ほら見ろ、顔が真っ赤だ。熱でもあるんじゃねーのか、これ?)

あまりの不憫さに大賢者が決死の助け舟を出そうとしたが、我らが魔王様の鉄壁すぎる、その「障壁」は、その演算すら雑音として撥ね除けてしまった。




《マスター…………貴方の「絶対恋愛障壁ニブチン」は、もはや究極能力アルティメットスキルの枠を超えています……。救いようが……ありません……》
零「おい、曹長。今日はもう寝ろ。明日になれば、その変なテンションも治ってるから。…………な? お前が俺を『好き』とか、そんなギャグ、笑えねーよ」

零は「やれやれ」と肩をすくめると、完全に「気の置けないオタク仲間」としての枠組みで、クルルの頭を優しくポンポンと叩いた。
自爆覚悟の告白を、最悪の形で「高度なギャグ」として処理されたクルル。
周囲に漂うのは、敵対心をも上回る圧倒的な「憐れみ」の空気。ヤンデレ化していたガルルですら、あまりの無惨さに何も言えず、静かに銃を下ろす始末だった。




「ク……クク………………そうだよ。………………ギャグだよぉ。…………ギャグに、決まってんだろぉ………………っ!!」

クルルは、自分の心が粉々に砕け散る乾いた音を聞きながら、それでも「魔王様の隣(専用機)」という居場所を死守するために、必死でその仮面を被り直すしかなかった。






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