第一節・第四部『紫の来訪者・再来』


夏美の説教から三日が過ぎた。

零は自宅のリビングで、淹れたてコーヒー(ギロロ作)を啜りながら「ふぅ……」と息をついていた。


「––さて、次は何のアニメにするでありますかな?零殿!」
「これなんてどうですかぁ〜?」
「それより、零はこっちだろぉ?…ククッ」
「師よ、俺の淹れたコーヒーは、その、口に合うだろうか…?」
零「……問題ないよ(……なんで俺の周りに、当然のようにケロロ小隊の面々が揃ってるんだ? お前ら、いい加減に日向家に帰れよ)」

ケロロ小隊とは言うが、相変わらず魔王様の唯一の癒しであるドロロがいない。また修行に行っているのか…。
そんな平和な(?)日常を、庭に響き渡った轟音と、荒々しく開け放たれたガラス戸の音がぶち壊した。



「――失礼する。鷹柴 零、いるか?」

土足同然でリビングに踏み込んできたのは、数日前に本星へ帰還したはずのガルル中尉だった。



「兄貴、また来たのか……」
零「中尉さん……お前、この前帰ったばっかだろ?」

零がコーヒーカップを机に置き、心底呆れた顔で問いかける。だが、ガルルはその言葉を完全に無視し、零の前まで大股で歩み寄ると、厳かに頭を下げた。その手には、見たこともない虹色に輝くコンテナが恭しく握られている。



「零……ケロン星の辺境宙域にて、『超合金製・完全変形ガンプラ(古代文明発掘品)』を入手した。……貴殿のコレクションに加える価値があると判断し、持参した次第だ」
零「いや、持参したって……ケロン星、そんなに近くねーよな?」

零が周囲のメンバーに同意を求めると、皆が深く頷く。しかし、ガルルは微塵も表情を変えずに言い放った。



「往復で五時間ほどだ。……最大戦速オーバードライブを運用すれば、貴殿に挨拶へ来るのに支障はない距離だ」
《――報告。個体名:ガルル中尉の搭乗機エンジンは、過負荷により爆発寸前です。……マスターに会いたいがために、物理法則を無視した運用を行っています。……ある種の「狂気」を検知しました》
零(……お前、マジかよ。忠誠心、重すぎるだろ)

零が戦慄しながらコンテナを受け取ると、ガルルはさらに一歩、距離を詰めてきた。



「それと……相談がある。先日、貴殿からの通信にて『アニメを観ろ』と示唆されたが……どの作品から着手すべきか、夜も眠れんのだ。…………一晩中、戦略的シミュレーションを繰り返したが、結論が出ん」
「兄貴……軍人としての威厳はどこへ……ッ!」

執事服姿のギロロが、変わり果てた兄の姿に絶望の声を漏らす。



「黙れ、弟よ。お前もさほど変わらん。……私は今、人生で最も重要な『戦略的決断』を下そうとしているのだ」
零「あ〜……まぁなんだ。アニメが選べないって話だよな? ちょっと考えるわ」

零は悩んだ。どうにかして、この「ネジの外れかかった紫の指揮官」を一旦星へ帰らせる方法はないかと。
悩み抜いた末、アニオタ魔王の脳細胞が導き出した答えは――『鬱アニメを観せれば、流石に精神的ダメージで帰るんじゃね?』という、あまりにも安直なものだった。



零「んじゃ、これ渡しとくわ。……奥の視聴部屋、自由に使っていいからさ」

零は記憶の引き出しから適当に選んだ一作を、ガルルへと手渡した。
大賢者はマスターの記憶を読み取り、瞬時に「その選択は危険である」と察知したが、零のとある究極能力の特性により、警告の出力がコンマ数秒遅れてしまった。





「……よし、ほれ――『ハッピーシュガーライフ』」


それは、甘いタイトルとは裏腹に、純愛と狂気が交錯する最凶のサイコホラーアニメ。

何も知らないガルルは、「感謝する!」と軍人らしい敬礼を残し、意気揚々と視聴部屋へと消えていった。
そしてそれを観ていた黄色いカエルが何やらワクワクしている事に誰も気付かないのであった。



(あれを渡すのかよ…ククッ!!!さすが魔王様だぜぇ〜…!!)




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