第一節・第一部『異世界魔王降臨!?捕食者と被捕食者』


零「……よし、決まりだ。大賢者、やれるか?」

零の問いに、脳内の知性が即座に応答する。



《了解。個体名:鷹柴 零の提案を承認。広域認知干渉――「精神操作マインドマニピュレーション」を開始します。対象、半径五百メートル以内の全知的生命体。この地には以前から空き家が存在し、本日、正当な手続きを経て入居したという偽装記憶を定着させます……完了しました》
零「よし、これでいきなり不法侵入で通報される心配はなくなったな!」

調べたら本来、ここには何もなかった、近隣住民の記憶の中では「ただの空き地」だった場所と判明。
なので、そこに突如として現れた一軒家という矛盾を、大賢者のチートじみた能力が強引に「日常」へと書き換えを実行したのだ。



零「さて、次は自分の身を守る手段だ……まずは基本から試すか」

日向家の庭と生垣一枚で接している自宅の庭先。
零はショートウルフの襟足を指で弄りながら、黒いパーカーの袖をまくりあげた。



零「大賢者、スキルの出力を最小にして『粘糸』を展開。ターゲットはあそこにある物干し竿だ」
《了解。発動します》

刹那、零の指先から目にも止まらぬ速さで透明な糸が射出された。
シュルッ、と空気を裂く音が響き、糸は正確にターゲットを捉えて絡みつく。



零「マジかよ!!?……本当にリムル様みてぇだな、これ!俺がオタクだから大賢者が気を利かせて、この形にしてくれたのか?」

自分の手のひらを見つめ、驚きと興奮で頬を緩める零。
しかし、その高揚感を冷やすような「声」が、どこからともなく響き渡った。



「――ク〜ックックックッ……なんだぁ?なんとも不可解な『異常ノイズ』が混じってきたと思ったら、これまた面白い新種が湧いてきてんじゃねぇかよ」

心臓が跳ねた。
陰湿で、粘着質で、聞くだけで耳の奥がざらつくような独得の笑い声。
それはアニメで何度も聞いた、あのケロロ小隊きってのトラブルメーカーであり、最高の頭脳を持つ参謀の声だった。



零「……ッ!? クルル曹長……!」

零が慌てて生垣の方を振り返ると、そこには案の定、黄色いボディに妙な渦巻き眼鏡を光らせたカエルがいた。クルルは手に持った奇妙なスキャナーをパチパチと叩きながら、生垣の影からその不気味な笑みを深くする。



「お隣さんは以前からずっと空き家だった……。近所の地球人はそう思ってるみてぇだが、俺様のレーダーは騙せないぜぇ。空間の歪み、突然現れた高エネルギー反応……ククッ、記憶の書き換えなんて、えげつないマネをしてくれるじゃないの」
零「(……コイツっ!?大賢者の精神操作を、自力の解析で突破してやがる……!)」

零は冷や汗を流しながら、パーカーのポケットの中で拳を握った。流石はケロン軍。地球ペコポンの常識が通用しない相手だとは分かっていたが、まさか接触一分足らずで「嘘」を見抜かれるとは。



「どうしたぁ? そんなに固まって。……その『指から出た糸』についても、じっくり聞かせてもらおうじゃねーの、お隣さん?」

クルルの眼鏡が、逃がさないと言わんばかりに怪しく発光した。



「ク〜ックックッ……。隠しても無駄だぜぇ。お前のその『力』、じっくり解剖リサーチさせてもらうとしようじゃねーか…!!」

クルルの冷徹な解析眼が、零が密かに構えた「糸」を捉える。一触即発。空気が凍りついたその瞬間、日向家の勝手口から能天気な声が響き渡った。



「ゲロゲロゲロゲロ……! おやおや、クルル曹長! こんなところで何をしているんでありますか?」

現れたのは、緑色の体に黄色い星。紛れもないこの世界の主人公、ケロロ軍曹であった。彼は手にしたガンプラの箱を大事そうに抱えながら、満面の笑みでこちらへ歩み寄ってくる。



「おや、貴殿は! 確かお隣に越してきた零殿でありますな? いやあ、ずっと空き家だったあそこに、ようやく素敵な隣人が来てくれて我輩も嬉しい限りであります!」
零「(……よし!コイツには完璧に、精神操作が効いている!)」

零は背中の冷や汗を拭い、思考を加速させた。クルルはまだ疑いの眼差しを向けている。ここで正体を「異世界人」と悟られるわけにはいかない。



零「あぁ、日向さんのところの……。挨拶が遅れて悪いな。ちょうど、お宅の曹長さんとお話をしていたところでよ」

零が努めて冷静に返すと、ケロロはふと足を止め、じーっと零を観察し始めた。その目は、先ほどまでののんびりしたものではなく、どこか「軍人」としての鋭さを孕んでいる。



「……ムムッ? 零殿……その構え、ただのペコポン人ではないでありますな? その立ち振る舞い、滲み出る『只者ではない感』……そして何より吾輩達を知っているその知識……はっ! もしかして貴殿、ケロン星本部から派遣された秘密工作員ではないでありますか!?」
零「………」

思わぬ斜め上の勘違いに、零は黙り込む。
しかし、これを利用しない手はない。



零「……ふっ、流石は軍曹。よく見抜いたな。隠していたつもりだったが」

零が「工作員」を装って不敵な笑みを浮かべると、ケロロは「やはり!」と大げさに飛び上がって喜んだ。



「やっぱりそうでありますか! いやあ、本部もようやく我輩の有能さを認めて、強力な助っ人を送り込んでくれたというわけでありますな! ク〜ッ、これでペコポン侵略も一歩前進であります!」
「ちょいと隊長さん、こいつはぁ……」

異を唱えようとしたクルルを、ケロロは「まあまあ!」と手で制した。



「クルル曹長、工作員殿に無礼は禁物であります。さあ零殿、庭先で立ち話もなんですし。ぜひ我輩たちの地下基地へご招待するであります! 歓迎の宴を催すでありますよ!」

クルルはチッと舌打ちし、眼鏡を指で押し上げた。



「……ククッ。いいぜ、隊長がそう言うならな。地下なら『機材』も揃ってることだし……たっぷり『おもてなし』してやるぜぇ、工作員さんよぉ?」

零は「大賢者の欠片」に、地下基地の構造解析と防御プログラムの準備を命じながら、二匹の宇宙人の後に着いていくのであった。



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