第一節・第三部『紫の影と絶対零度の眼差し』
ガルル小隊が去り、庭に静寂が戻った――はずだった。
翌日の夕方。日向家のリビングには、昨日の戦略兵器の衝突音よりも恐ろしい空気が漂っていた。
「……で? 何だったんですか、昨日のあの騒ぎは」
腕を組み、背後にどす黒いオーラを背負って仁王立ちしているのは、エプロン姿の夏美だ。その足元には、連絡を受けて「夏美ちゃんに呼ばれたー!」とホイホイやって来たものの、あまりの剣幕に借りてきた猫のように丸くなって正座する『魔王様』こと、鷹柴 零の姿があった。
零「いや、ちょっとした……近所付き合いっていうか、挨拶?」
「挨拶で時空が歪んだりするわけないですよねぇ!! 冬樹だって怖がってたんですからね!」
「え? 僕、むしろ楽し……」
「冬樹は黙ってて!」
零「あー……すまん。以後、気をつける」
零はショートウルフの頭を深く垂れ、殊勝な態度を見せる。その姿はいつもの不遜な魔王様とは違い、夏美の怒りの前では不思議と小さく見えた。
その背後では、ケロロ、ギロロ、タママ、ドロロ、そしてクルルまでもが、一列に並んで一緒に正座させられている。
「な、夏美殿……なぜ我輩たちも正座を……?」
「黙りなさい、このボケガエル! 一緒にいたんだから同罪でしょ!! ……零さんも、ボケガエルたちを甘やかしすぎよ!」
魔王の威厳もどこへやら。夏美の「正論」という名のハルマゲドンに、一同は(魔王様含め)ただ平伏するしかなかった。そこへ、空気を読まない玄関のチャイムが鳴り響く。
「……何よ、こんな時に。冬樹、出てくれる?」
「うん、はーい。………………えっ、何これ!? 姉ちゃん! 軍曹! 零さん宛に凄い大きな荷物が届いたよ!」
冬樹が抱えてきたのは、ケロン軍の紋章が刻まれた重厚なコンテナ。送り主の名は――ガルル中尉。
念のため、怒れる夏美の射程圏外にいたモアがパカリと蓋を開ける。(魔王とその部下たちは夏美の威圧で一歩も動けない!)
するとそこには、眩いばかりの光を放つ「宇宙限定・メッキ仕様・1/1 scale ガンプラ(自動可動式)」が鎮座していた。
「あれ? まだ奥に何か……」
ガンプラに目を輝かせる魔王様と軍曹を他所に、モアがコンテナの底にあった一枚の電子メッセージカードに気づく。夏美が「何よそれ」と首を傾げる中、モアがポチッとな、と再生ボタンを押してしまった。
ホログラムで映し出されたのは、ビシッと綺麗に揃った敬礼を繰り出すガルル小隊の面々。そして、ガルルの低く渋い声がリビングに響き渡る。
『――先日の多大なる「指導」に感謝する。これは我が小隊からの誠意だ。………………追伸。個人的に聞きたいことなのだが……その、『魔王』とは、普段何を食べているものなのだ? 好きな物はあるのだろうか……?』
その音声が流れた瞬間、リビングの空気が一瞬で凍りついた。
夏美の、地を這うような低い声が響く。
「零さん…………あの紫の軍人さんにまで、手を出して!!! 一体何しちゃったのよッ!!」
零「…………いや、俺はただ…その…ほら、お土産を頼んだだけで、だな……」
必死に言い訳しつつも、零の瞳は限定ガンプラから離れない。
「反省してないでしょ!!」という夏美の再点火した怒声に、魔王様は再び深く、深く頭を下げるのであった。
終