第一節・第三部『紫の影と絶対零度の眼差し』


庭に崩れ落ち、存在しないはずの「部下を傷つけた生々しい感触」に震え続けるガルル。その視界に、ふわりと長い影が落ちた。



零「……なーんてな。冗談だよ、冗談! 悪かったな、中尉さん」

零がスッと屈み込み、ガルルの額を指先でトン、と軽く弾いた。
その瞬間、彼の脳内を支配していたどろりとした絶望の澱みが、清冽な水で洗い流されるように霧散していく。



「っ!? ……一体、何を……」

心が絶望の淵から解き放たれた感覚に、ガルルが弾かれたように顔を上げる。そこにあったのは、先ほどまで幾度となく自分を地獄へ突き落としたあの黒銀の瞳――だが、それは氷のような冷徹さではなく、どこか悪戯っぽく、それでいて深淵な慈悲を湛えた眼差しだった。



「っっ……!!?」
「た、隊長! 武器が戻っています! システム、オールグリーンです!」

トロロの叫び声に手元を見れば、大賢者が「暴食者」で喰らい尽くしたはずの愛銃や装備一式が、以前よりもさらに精密に、そして禍々しいほどに研ぎ澄まされた状態で転がっていた。



零「俺さ、好きなアニメのキャラを本気で『悪い方』にぶっ壊す趣味はねーんだ。……お前らの戦い方、結構カッコよくて気に入ってたしな」

零は立ち上がり、呆然とするガルルに手を貸すこともせず、ただ不敵に笑ってみせた。



零「武器も船も、前よりちょっと『強化』しといてやったからよ。それが、俺からの詫びだ。……な? やさしー魔王様、だろ?」
「…………貴様…………一体、何者なんだ……」
「それと! もし次、俺の『遊び場』に来る時は、もっと楽しい遊びを考えてこいよ。……あ、お土産はガンプラの限定版で頼むわ!」

零は背を向け、ひらひらと手を振りながら自分の家の中へと戻っていく。どさくさに紛れて、ケロロ小隊の面々も「我輩たちも失礼するであります!」と当然のような顔で後に続いた。

後に残されたガルルは、手元に戻った銃の確かな重みを感じながら、皮肉なまでの「救済」に打ちのめされていた。

圧倒的な絶望を見せつけられた直後に与えられた、完璧なまでの慈悲。
それは力でねじ伏せられるよりも深く、重く、ガルルの魂に「鷹柴 零魔王」という存在を消えない刻印として刻みつけてしまった。



零「…………完敗だ。これでは、殺すことも……憎むこともできんではないか……っ!!」

突如として来訪した紫の指揮官は、夕闇に消えていく魔王の背中を、見えなくなるまでただ見つめ続けるしかなかった。



「…………帰るぞ! お前達!」
「「はい! 隊長!!」」

最強の精鋭部隊を撤退させた魔王は、今頃家の中で「推し」のガンプラを愛でているのだろう。ガルルは自嘲気味に口角を上げると、静かに戦場を後にした。




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