第一節・第三部『紫の影と絶対零度の眼差し』


「隊長! ガルル隊長! しっかりしてくださいッ!!」
「…………な、ここは……。それにお前達、無事なのか……?」

ガルルが意識を取り戻したとき、そこにあるのは血に染まった夜明けの光ではなく、まだ夕闇が残り始めたばかりの、穏やかな庭の風景だった。
呆然と立ち尽くすガルルの顔を、心配そうに覗き込むトロロやタルル。そこには、糸に操られて互いを砕き合った傷もなければ、欠損した四肢もない。ただ、武器を失い、武装を解除された「無力な精鋭」たちが、困惑して立っているだけだった。



「良い悪夢ユメ、見れたか?」
「………………夢? まさか、今の『地獄』も……すべて、幻覚だったというのか……っ!?」
零「当たり前だろ。誰がお前らが不細工に踊ってる姿なんて楽しむんだよ。俺の『推しアニメ』のワンカットにも及ばねーよ。時間の無駄だ」

声のする方へ、這いずるように振り返る。
そこには、いつの間にか用意されたテーブルと椅子に腰掛け、優雅にコーヒーを啜りながらスマホを弄る零の姿があった。
その周りには、ケロロ小隊の面々がこれ以上ないほど「くつろいだ」様子で揃っている。軍曹とドロロは茶をすすり、タママはコーラを煽り、ギロロはエナドリを握りしめ、クルルに至っては「新発売! カレー風味ラムネサイダー」を怪しく振っていた。

零はスマホをポケットにしまうと、膝を突き、絶望に震えるガルルへ凍りつくような冷笑を向けた。



零「……けど、良かったな? お前のプライドがどれだけ脆いか、自分自身でよく分かっただろ。今味わった地獄は、お前の『記憶』に一生刻んどけ。それが、俺の庭を荒らした罰だ」

ガルルはその場に、力なく膝から崩れ落ちた。
肉体は無傷。しかし、その魂には「部下を永遠に傷つけ続けた」という、偽りの、それでいてあまりに生々しい記憶の傷が深く、永久に消えない刻印として刻み込まれたのだ。








【閑話休題:魔王のティータイムと外野の悲鳴】

「隊長! どうしたんですか!? 隊長ってば!!!」
「……隊長…………」

「最初の一分」の悪夢から速攻で復帰した部下たちが、石のように固まったガルルを揺さぶるが、反応はない。



「おい! お前! 隊長に何をした!! ……って、何してんだお前らッ!!」

トロロが零に向かって暴言を吐こうと振り返り、絶句した。そこには、いつの間にか出現したケロロ小隊が、甲斐甲斐しく零に奉仕する異様な光景が広がっていた。



「いやあ〜! さすが零殿! 素晴らしい精神支配テクニックでありましたな!」
「まさに覇道! 僕らの魔王様ですぅ〜!」
「その、なんだ……師よ。さすがに兄貴に対し、少しやりすぎなのでは……」
「ク〜クックック。アンタ、兄貴にあんだけ(幻覚で)ズタボロにされてたってのに、まだ庇うのかよぉ?」
「確かに、やりすぎな気もしないではござらんが……これも因果応報。諦めなよ、ギロロくん」

のほほんと談笑するケロロ小隊。
その裏では、「誰が魔王様の隣の席(特等席)を確保するか」という、視線による熾烈な水面下バトルも勃発していた。



「おいってば!! ……っ!! 話を聞けえぇぇぇぇぇ!!!」

トロロの悲鳴に近い叫びが虚しく響く。
ガルル中尉が、その深い魂の傷と共に再起動する、数秒前の出来事であった。




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