第一節・第三部『紫の影と絶対零度の眼差し』
「待ってくれ。部下たちは……弟は、関係ないだろう!? 俺一人が、貴様の『犬』にでも何にでもなる……!! だから、他の連中には手を出すなッ!」
地面に這いつくばり、砂を噛むような思いでガルルが絞り出した懇願。ケロン軍の誇り、中尉の地位、そのすべてを投げ打ち、彼は泥に塗れた額を零の足元に擦り付けた。
だが、零はその決死の助命嘆願を、冷え切った鼻笑い一つで無慈悲に切り捨てた。
零「あ? 何勘違いしてんの、中尉さん。お前が俺の犬になるのは、もうとっくに決まった『決定事項』なんだよ。それに、お前の小隊はワンチャン見逃してやってもいいけど……
「なっ!? 貴様……どこまで……ッ!!」
零「あーあ、そんな怖い顔すんなよ。せっかく選ばせてやろうと思ったのにさ。……大賢者、こいつらの全神経に糸を繋げ。夜明けまで、醜く踊り狂ってもらおうぜ?」
《――了解。「操糸妖縛陣」接続。……個体名:ガルル小隊、強制駆動を開始します》
ガルルの絶望に満ちた悲鳴を無視して、目に見えないほど細く強靭な透明な糸が、彼らの四肢、そして中枢神経へと深く食い込んでいく。
気絶しているはずの部下たちが、そしてガルル自身が、己の意志とは無関係にカクカクと不自然な動きで立ち上がった。ゆっくりと、だが確実に互いへ近づいていき――。
グシャッ、と生々しい音が響く。ガルルの拳が、愛する部下の顔面を砕き、蹴り飛ばす。自らの身体が、滑稽なステップで死のダンスを刻み始めた。
「やめろ! やめてくれ! ……ゾルル、トロロ……逃げろッ!! 殺してくれ……ッ!!」
血と涙を流しながら、実の部下を自らの拳で破壊し続けるガルル。軍人としての誇りが、男としての理性が、メキメキと音を立てて崩壊していく。その凄惨な「余興」を、零はまるで映画でも観るような気軽さで、冷徹に眺めていた。
それから、何時間が過ぎただろうか。
気づけば地平線から無情な朝日が昇り、ガルルの心は完全に「死」を迎えていた。光を失った虚ろな瞳で、ただ糸に操られるだけの肉塊と化した姿。
「……あ、……ぁ……」
零「――満足したか? 中尉さん」
零が、退屈そうに指をパチンと鳴らす。
零「ジャスト、二分だ」
その瞬間、再び世界がガラスのように砕け散った。
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