第一節・第三部『紫の影と絶対零度の眼差し』


零「あぁ、その前に逃亡されちゃ困るからな。……全てを喰らい尽くせ!『暴食者グラトニー』!」
「なっ!?…艦との通信が……!?消えた、だと……!?」

ガルル中尉が、虚空を掴むように叫んだ。両家の上空に滞在していたはずのガルル小隊旗艦、そして彼らが身に纏っていた最新鋭のケロン軍火器が、黒い霧のような渦に飲み込まれ、一瞬にして消失したのだ。
それは単純な破壊ではない。
「存在そのものの抹消」
大賢者の権能によって、彼らの誇りである軍事力すべてが、零の胃袋ストレージへと収まった瞬間だった。
零は絶望に染まるガルルを見下ろして、愉快そうに口角を上げた。



零「大賢者、データは全部食ったか?」
《――肯定。旗艦の設計図、特殊弾頭の配合、暗号コード……すべて完全な状態で保管しました。……いつでも再構築プリントアウト可能です》
零「よし。じゃあ、仕上げだ」

零は膝をつき、茫然自失となったガルルの目の前に顔を寄せた。その黒銀の瞳は、獲物をいたぶる蛇のように細められている。



零「なぁ、中尉さん。俺ってさ、自分でも引くぐらい『やさしー魔王様』なんだわ。だから……お前に選択肢をやるよ」

零は拳をガルルの鼻先に突きつけた。


零「一つ。その動かない身体を俺の『万能糸』で無理やり動かして、仲間同士で潰し合う『屈辱のダンス』を夜明けまで踊り明かすか」

楽しそうに笑いながら、指を一本立てる。


零「二つ。お前らのその優秀な頭脳と身体を、俺のオタク生活を支える『最強の番犬』として捧げるか」

二本目の指がゆっくりと立てられた。


零「どっちがいい? ……ああ、別に選ばなくてもいいぜ? その場合は、大賢者がお前らの『中身キオク』を全部書き換えて、俺の『動く専用機ぬいぐるみ』にしちまうだけだからさ」

零の背後で、大賢者がクルルを凌駕する不気味な笑い声を合成して響かせる。



《ク〜クックック…………。さぁ、選択チョイスの時間だぜぇ、プロの軍人様ぁ?》


逃げ場のない「究極の二択」。
魔王の慈悲という名の呪縛が、ガルルの精神を粉々に粉砕しようとしていた。






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