第一節・第三部『紫の影と絶対零度の眼差し』
「所詮は地球人……。これが現実だ、ケロロ軍曹殿。さぁ、その遺体とスマホをこちらに……」
ガルルが冷徹に告げ、物言わぬ骸となった零を回収しようと手を伸ばした、その時だった。
零「――ジャスト、一分だ」
「なっ……!!?」
世界そのものを震わせるような零の声が、全方位から響き渡った。
直後、ガルルの視界を支配していた景色が、ガラス細工のように音を立てて崩壊していく。爆炎も、貫かれた零の胸も、軍曹の絶叫も、すべてが虚空へと溶けて消えた。
我に返ったガルルが目にしたのは、夕暮れの穏やかな庭に、ただ一人、静かに佇む零の姿だった。ガルルを含めた小隊の全員が、いつの間にか彼女の足元に力なく転がされている。
「な、何が……!? 貴様、何をした……!!」
零「いい
ガルルが咄嗟に辺りを見渡すが、そこにはケロロ小隊の姿などどこにもない。ただ、アニオタゆえに某「奪還屋」の決め台詞を完璧なタイミングでなぞった魔王が、勝ち誇るでもなく、そこに立っているだけだった。
見上げれば、零の瞳には「絶対零度」と呼ぶに相応しい、冷徹で鋭い視線が宿っている。その眼差しに射抜かれた瞬間、ガルルは己の長年の軍人経験からすべてを悟った。
今までの惨劇、勝利の確信、そして弟の無惨な姿――そのすべてが、目の前の「魔王」が見せた、あまりにも精緻で残酷な幻覚だったのだ。
「……いつからだ? いつから我らは術中に……」
零「へぇ、気づくのが早くて助かるよ、中尉さん。……あんたが宇宙船から一歩踏み出したあたりかな」
零は薄く微笑むが、その瞳は微塵も笑っていない。
《――告。個体名:ガルル中尉の精神負荷、限界値を確認。勝利の確信からの転落により、脳内物質のバランスが崩壊。……これより、「真の絶望」のフェーズへと移行します》
大賢者の無機質な宣告が、逃げ場のない庭に冷たく響き渡る。
零「さて……。で? お前はさっき、自信満々に言ってたよなぁ? 所詮は地球人……プロの技術があれば、地球人一人くらいどうとでもなる、ってか?」
零は動けないガルルの前で静かに腰を落とし、その顎を指先で強引に持ち上げた。
零「……その傲慢な『自信』。俺が今から根こそぎ、喰らってやるよ」
覗き込んだ黒銀の瞳の中には、怯えるガルル自身の姿が映り込んでいる。だが、その瞳の奥底には、底知れない暗黒の気配が蠢いていた。
「お前が夢の中で、俺の
魔王の宣告。それは、最強の精鋭部隊にとっての、終わりの始まりだった。
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