第一節・第三部『紫の影と絶対零度の眼差し』



零の自宅と日向家の庭で繰り広げられる、かつてない規模の激突。眼下で火花を散らすその光景を、零は窓枠に腰掛けたまま、不敵な笑みを浮かべて見下ろしていた。



《――告。マスター。口角が上がりすぎています。不謹慎ですので自重してください》

脳内で大賢者に釘を刺され、零は「わりぃ、わりぃ。つい、な」と小さく苦笑する。



「ゲロ? どうしましたか、零殿?」

隣にいたケロロが不思議そうに首を傾げる。



零「いや、なんでもねぇよ。それより軍曹は行かねぇの?」
「ゲ〜ロゲロゲロ! 我輩は隊長でありますよ? ここで零殿の安全を守るのが……」

『務めであります!』と胸を張ろうとした軍曹の言葉は、横から飛来した「肉塊」によって遮られた。轟音と共に零の部屋の壁まで吹き飛ばされ、めり込んだのは――ボロボロになったタママだった。



「タ、タママ二等ッ!?しっかりするであります!!!」

軍曹が慌てて駆け寄るが、タママは既に意識を刈り取られ、白目を剥いて気絶していた。



「な、何が起こっているでありますか……。前に戦った時は、我輩たちが勝ったはずなのに……っ」

ガタガタと震え出す軍曹。かつての勝利の記憶が、目の前の圧倒的な実力差によって打ち砕かれていく。
零は再び庭へと視線を落とした。そこには、目を背けたくなるような惨劇が広がっていた。


「がはっ……!!」
暗殺兵ゾルルの刃にズタズタに切り裂かれ、地に伏すドロロ。


「ク、ククッ……演算が……追いつか……」
トレードマークの眼鏡を破壊され、黒焦げの姿で倒れ込むクルル。
そして。


「かはぁっ……!!」
「やはり『堕落』だな、弟よ。兄は悲しいぞ」

空中に浮遊するガルル中尉。その太い腕が、血反吐を吐くギロロの首を無慈悲に締め上げている。燕尾服は無残に引き裂かれ、執事としての矜持すら踏みにじられていた。



「こ、これは……なんでありますか……」

崩れ落ちた仲間たちの姿に、軍曹は膝から崩れ落ちた。自分たちは「魔王」に魂を売り、強くなったはずではなかったのか。
ガルルはギロロをゴミのように放り捨てると、ゆっくりと上昇し、窓辺に座る零と、奥でタママを抱える軍曹へ銃口を向けた。



零「……なぁ、中尉さん。今謝るなら許してやるけど、どうする?」

絶望的な状況下で、零は依然として淡々と言い放つ。



「……抵抗は無意味だ。貴様のデータ、特異能力、そしてその傲慢な精神。……我が小隊が完封する……!!」
「っ……!! 零殿おおぉぉぉぉぉ!!!」

ガルルの冷徹な宣告と共に、超高出力ビーム砲が放たれた。
光の奔流が零の胸を容赦なく貫く。
軍曹が必死に手を伸ばすが、指先は空を切り、間に合わない。



「そんな! そんな! 零殿……っ!!」

軍曹の絶叫が響く。震える手で零に触れれば、掌を濡らす朱紅い雫が、確かな温もりを持って現実を突きつけてくる。




――零は、本当に撃たれたのだ。




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