第一節・第二部『ケロロ小隊「オタク化」計画、始動!!』


「では、行ってくるぞ!」

日向家の地下基地。
一晩行方不明だったクルルを(さすがに)案じたギロロは武装を整え、飛び出そうとしたその時、自動ドアが静かに左右へ開く。
逆光の中に立っていたのは、ボロ雑巾のように力なく垂れ下がったクルルの首根っこを掴み、この世の春を謳歌するような晴れやかな笑みを浮かべた零だった。



零「よう、みんな。曹長を返しに来たぜ。……いやぁ、一晩中『語り合って』たら、つい熱が入っちまってな」

その背後に立ち昇る、全能感に満ちた魔王のオーラ。一晩でクルルをここまで叩き伏せたその「力」に、ギロロとタママは戦慄を通り越し、一種の崇拝にも似た感情を抱いた。



「き、貴様………!!!我が小隊の…クルルをここまで廃人にするとは!一体どんな拷問を…ッ!?」

ギロロが驚愕し、銃を構える手も震える。
だが、その隣で軍曹の目が、かつてないほどキラキラと輝き出した。



「ゲー――ロォォォ!!あの、ひねくれ者の極致、嫌な奴の権化、全宇宙が匙を投げたクルル曹長を……これほどまでに従順(?)に、かつ静かにさせるとは!!」

ケロロは脱兎の如き勢いで零の足元にスライディングし、そのスニーカーに縋り付いた。



「零殿!!!いえ、魔王様!!!ぜひ、その『人心掌握(わがままな部下を黙らせる)の秘術』を!我輩に伝授してほしいであります!!これさえあれば、ペコポン侵略の効率は100倍、いやガンプラ1000個分に跳ね上がるであります!!」
零「………は?弟子入り?」
《告。個体名・ケロロ軍曹の弟子入り志願を確認。……「侵略」の効率化を目的としていますが、実際には「サボり時間の確保」が真意であると推測されます。……受理しますか?》
零「あぁ、そういう………フッ、いいぜ。軍曹、俺の修行は……地獄よりキツいぞ?」

零はわざと低く、魅力的な声で微笑んだ。
その背後で、ようやく意識を取り戻し始めたクルルが、零の服から覗く鎖骨を凝視しながら「……ククッ、地獄、か。……またかよ……悪くねぇじゃねーの…………」 と、より一層深い執着の眼差しを向けていた。



「な、夏美……すまん!!……この基地に、本物の魔王が君臨してしまった……!!!」

一人、常識的な恐怖に震えるギロロの声だけが、虚しく響き消えていく。
そこへ大賢者が《個体名:ケロロ小隊を掌握・使役する絶好の機会です》と冷徹に告げる。
零の機嫌は最高潮に達していた。



こうして始まった「修行」という名の洗脳……もとい、オタク化計画。
目の前に並べられたのは、零が厳選した『涙なしでは観られない激エモ・名作アニメ100選』



零「いいか、瞬きは許さねぇぞ?軍曹、貴様には24時間のガンプラ禁止令だ。一度でも『ガンプラ』と口走ったら、脳内に直接不協和音ノイズを叩き込む」
「ゲロッ! 24時間ガンプラ禁止!?そ、そんなの我輩のアイデンティティが崩壊するであります!」
零「修行すんだろ?軍曹……これは『地球人の感性』を理解し、その裏をかくための高度な心理戦訓練だ。……耐えてみせろよ?」
「ぐ、ぐぬぬ……!!零殿の仰る通りであります! 我輩、耐えてみせるであります!!!」
零「伍長!タママ二等!貴様らも集中を切らすなよ。これは、侵略者としての『魂の純度』を試す修行だ。いいな?……大賢者、出力上げろ」

画面から流れる圧倒的な作画、魂を揺さぶる劇伴、そして無慈悲なまでに美しいストーリー。
部屋の隅には、既に廃人と化したクルルが「リタイア枠」として無造作に転がされている。
その横で、零はクルルにだけ聞こえる声で囁いた。




零「……いいか、曹長。俺が『女』だってバラしたら、次はお前の全データを『魔法少女』で上書きする……面白いから、黙ってろよ?」
「ククッ……契約成立だぜぇ……。俺様だけの『秘密』にしておいた方が、解析のしがいがあるからなぁ……」



数時間後。
そこには、変わり果てた小隊の姿があった。



「うおぉぉぉん! この……この最終回のカタルシス! 我輩、ガンプラ(禁句)……ガ、ガガガッ!? ……あぁ、ガンプラなんてどうでもいい、この作画の繊細さに震えるであります!」
「この、仲間のために散っていく軍人の魂……! 零! この作品の第12話、もう一度見せろ! 俺の血が…武人としての血が滾る!」
「主人公への感情移入が止まりません……! ボクもこんな風に、誰かを一途に想って…(チラリと軍曹を見て、また画面に戻る)…あぁ、尊いですぅぅ!」

かつての侵略者たちは、零の膝元にベタベタと擦り寄り、熱を帯びた瞳でアニメの解釈を競い合っていた。
そんな光景を、ようやく身体を動かせるようになったクルルが、憎々しげに眺めていた。彼はふらりと立ち上がると、談笑の輪に加わるのではなく、零の背後に回った。
そして、無言のまま、己の背中を零の背中へと預けたのだ。



(……ククッ。なーにがアニメ談義だ。何も知らねぇコイツらが、平気な顔してコイツに触れてやがる……。この喉仏のねぇ首筋も、この細い肩も……全部、俺様だけが知ってる『真実エラー』だってのによぉ……)

それは「自分にも構え」という露骨な独占欲の表れ。
憎悪を燃料に燃え上がった執着は、既に「自分だけが知る特別な個体」を他者から遠ざけたいという、歪んだ支配欲へと変質していた。
だが、天才的な頭脳を持つクルルですら、この胸のざわつきを「観察対象への独占欲」だと定義し、恋愛感情という答えを頑なに拒絶する。
そして零もまた、背中に感じるクルルの体温を「ただの懐いているペットの甘え」として受け流していた。




零「……ははっ、どいつもこいつも極まったな。いいぜ、次はOVAシリーズだ。一睡もさせねぇぞ!!」

24時間を超える不眠不休の修行。
魔王・零を中心に、歪な愛と共通の「推し」で結ばれたケロン人たちは、もはや侵略者の顔をしていなかった。




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