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その日はニュースで寒波到来と騒がれているほどに寒かった。たまたまオフだった俺は何となく寒さを感じたくてひとりで東京の街をぶらぶらする。
きっと今頃北人とももは久しぶりのデートを楽しんでいるのだろう。
何をしても頭に浮かぶのはあの笑顔で、我ながら女々しいな、と笑ってしまう。
「さむ…」
気になっていた服を買って、流行りの映画を見て。
気がつけばもう夕方だった。
寮に帰ろうと目黒川沿いをのんびり歩いていく。
少し先に小さな公園があって、そこを通り過ぎようときたその時だった。
「……もも?」
俺の声に反応して顔を上げたのはやっぱりももで。
その瞳は涙に濡れていて、俺は驚いてももの座るベンチに駆け寄る。
なんで。今日は北人と一緒のはずじゃ…
「どうしたんやこんなところで。なんで泣いてるん?」
隣に座る。
すこし迷って、俺はそっとその背中に手を回した。
震える華奢な背中はコート越しにも分かるほど冷え切っていて、俺は落ちつけるように優しくさする。
「北人くんと、ケンカしちゃって」
「ケンカ?なんで」
「私が悪いの。ちょっと最近疲れが溜まってたから、今日も一緒にいてつい疲れたとか、そこは行きたくないとかワガママ言っちゃって。企画してくれたの北人くんだったから、北人くん怒っちゃって…」
「あー…」
それは北人も怒るかもしれない。
でも。
俺は華奢な背中をさすりながら、ほろほろと涙を流すその横顔を見つめた。
俺だったら。
仕事で疲れている愛しいひとがいたら、すこしでも労わってやりたいと思う。
優しい言葉をかけて、そっと抱き寄せて、髪を撫でて。
俺がももの恋人だったら。
「…もも」
北人、お前が羨ましいよ。
俺がももにしてあげたいことぜんぶ、する権利があるのだから。
俺じゃだめなんだ。俺じゃどうしたって届かない、片恋のひと。
こんなにも強く思っているのに、報われない哀しい恋。
「確かにそれはももも悪かったかもしらん。でもな、ちゃんと説明すればきっと北人も分かってくれると思う。北人が優しいやつやってこと、いちばん分かってるのはももやろ?」
「…うん」
「ちゃんと落ち着いて、明日謝り。そんで美味しいケーキ作ってさ、そしたらきっと元通りやから。大丈夫。北人はもものこと、ちゃんと大切に思ってる」
「うん、うん……。ありがとう壱馬くん、壱馬くんの言う通りだ。ちゃんと謝る。ケーキも持ってく」
ようやくももに笑顔が戻った。
うん、やっぱり俺はこの花が咲いたみたいな笑顔がいちばん好きだ。
俺はぽん、とももの背中を軽く叩いて立ち上がる。
「さ、暗くなってきたしいつまでもこんなところおったら風邪ひくで。家帰ろ。送ってくから」
「ありがとう」
ももは立ち上がって、俺の数歩前を歩き出した。
その背中はいつもより遠く感じて。
どうして好きになってしまったのか。
何度目かも分からぬ問いかけを胸のうちで反駁する。
叶わないと分かっているのに。
その時だった。
ふいにももが振り返って、いつもみたいにあまいあまい笑顔で。
言った。
「壱馬くんにも、ステキな恋人ができるように。私祈ってるよ」
あぁ。
俺の心のやわらかい場所を守っていた壁が、いとも簡単に、つき崩された。
今までずっとしまいこんでいた想いが、一気に溢れ出す。
もうダメだ。我慢なんてできない。
俺は。
俺は。
「俺は、ももが好き」
きっと今頃北人とももは久しぶりのデートを楽しんでいるのだろう。
何をしても頭に浮かぶのはあの笑顔で、我ながら女々しいな、と笑ってしまう。
「さむ…」
気になっていた服を買って、流行りの映画を見て。
気がつけばもう夕方だった。
寮に帰ろうと目黒川沿いをのんびり歩いていく。
少し先に小さな公園があって、そこを通り過ぎようときたその時だった。
「……もも?」
俺の声に反応して顔を上げたのはやっぱりももで。
その瞳は涙に濡れていて、俺は驚いてももの座るベンチに駆け寄る。
なんで。今日は北人と一緒のはずじゃ…
「どうしたんやこんなところで。なんで泣いてるん?」
隣に座る。
すこし迷って、俺はそっとその背中に手を回した。
震える華奢な背中はコート越しにも分かるほど冷え切っていて、俺は落ちつけるように優しくさする。
「北人くんと、ケンカしちゃって」
「ケンカ?なんで」
「私が悪いの。ちょっと最近疲れが溜まってたから、今日も一緒にいてつい疲れたとか、そこは行きたくないとかワガママ言っちゃって。企画してくれたの北人くんだったから、北人くん怒っちゃって…」
「あー…」
それは北人も怒るかもしれない。
でも。
俺は華奢な背中をさすりながら、ほろほろと涙を流すその横顔を見つめた。
俺だったら。
仕事で疲れている愛しいひとがいたら、すこしでも労わってやりたいと思う。
優しい言葉をかけて、そっと抱き寄せて、髪を撫でて。
俺がももの恋人だったら。
「…もも」
北人、お前が羨ましいよ。
俺がももにしてあげたいことぜんぶ、する権利があるのだから。
俺じゃだめなんだ。俺じゃどうしたって届かない、片恋のひと。
こんなにも強く思っているのに、報われない哀しい恋。
「確かにそれはももも悪かったかもしらん。でもな、ちゃんと説明すればきっと北人も分かってくれると思う。北人が優しいやつやってこと、いちばん分かってるのはももやろ?」
「…うん」
「ちゃんと落ち着いて、明日謝り。そんで美味しいケーキ作ってさ、そしたらきっと元通りやから。大丈夫。北人はもものこと、ちゃんと大切に思ってる」
「うん、うん……。ありがとう壱馬くん、壱馬くんの言う通りだ。ちゃんと謝る。ケーキも持ってく」
ようやくももに笑顔が戻った。
うん、やっぱり俺はこの花が咲いたみたいな笑顔がいちばん好きだ。
俺はぽん、とももの背中を軽く叩いて立ち上がる。
「さ、暗くなってきたしいつまでもこんなところおったら風邪ひくで。家帰ろ。送ってくから」
「ありがとう」
ももは立ち上がって、俺の数歩前を歩き出した。
その背中はいつもより遠く感じて。
どうして好きになってしまったのか。
何度目かも分からぬ問いかけを胸のうちで反駁する。
叶わないと分かっているのに。
その時だった。
ふいにももが振り返って、いつもみたいにあまいあまい笑顔で。
言った。
「壱馬くんにも、ステキな恋人ができるように。私祈ってるよ」
あぁ。
俺の心のやわらかい場所を守っていた壁が、いとも簡単に、つき崩された。
今までずっとしまいこんでいた想いが、一気に溢れ出す。
もうダメだ。我慢なんてできない。
俺は。
俺は。
「俺は、ももが好き」