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ツアーも終わり、俺たちのファーストアルバムもリリース。あっという間に秋が来た。
季節が巡っても俺は変わらず、実らない恋の果実を抱えたままあの店に通っている。
「また痩せた?」
「え?そうかな」
俺たちの関係で変わったことといえば、敬語が外れたことくらい。
「店忙しいからってご飯はちゃんと食べなあかんで」
「お母さんみたい、壱馬くん」
店に誰もいないのをいいことに、ももは俺の前に座ってケラケラ笑う。
そんなささやかなひとときと一緒に食べるケーキが、最近の俺の楽しみだった
「ていうか壱馬くんだって、ケーキばっか食べてたら太っちゃうよ?アーティストなのに」
「俺はええねん。ちゃんとジムでカロリー消費してるから」
「え〜私もジム通いしようかな」
ももは自分の分のハーブティーをこくりと飲んだ。
白い喉が上下に動くのを視界の端で眺めながら、俺は何気ないふうを装って尋ねてみる。
「北人のどこが好きなん?」
「…急だね。そうだな…いっぱいあるけど、でもいちばんは笑顔が好き」
「顔やん」
「違うよ。笑った時に、あぁこの人絶対すてきだなっていうのがこう、滲み出てるというか。優しく笑ってくれるの」
そこが、好き。
秋の蜜色の日差しに照らされて、ももははにかむ。
君のぜんぶは、あまいものでできている。包み込むような優しい性格も、涼やかなその声も、紡ぎだす言葉も。
「私、いますごく幸せ。壱馬くんのおかげ。本当にありがとう」
あまいはずなのに、俺はそんな君を見ているとなぜだか泣きたくなってしまうのだ。
どうして好きになってしまったのだろう。
君がしあわせを浮かべて話すのは北人を想って話す時だけ。俺じゃだめなんだ。
でも。
俺の忙しさで色彩を感じる間もなかった毎日が輝きはじめたのは、君のおかげだから。
君がいなくなってしまったら、俺の日常はまた無味乾燥な日々に戻ってしまう。
だから俺は、今日も精一杯の笑顔を返すんだ。
「これからも、お幸せにな」
「ありがとう……さて、仕事しなきゃ」
ももは空になったハーブティーのマグを持って立ち上がる。
ガシャン
立ち上がったとたん、ももの身体がぐらりと揺れたと思ったら、その手からマグが滑り落ちた。
テーブルに手をついたため倒れることはなかったが、顔が真っ白だ。
「もも!?大丈夫!?」
「う……うん、ごめん大丈夫。立ちくらみ」
ももはしばらく苦しげに目を瞑っていた。
今までそんなことなかったのに。
不安にかられた俺は、ももの肩を支える。
折れてしまいそうなほど、細い肩だった。
「ごめんね、ありがとう。やっぱり栄養足りてないのかな、あはは」
「絶対そうやで。いっかい病院行った方がええんとちゃう?」
「前に行ったんだけどね、別に大丈夫だって言われて。ていうかコップ割っちゃった…触らないでね、手切れちゃう。今箒持ってくるから」
「俺やろか?」
「ううん、大丈夫。座ってて」
そう言って店の奥へ引っ込むももの足取りはしっかりとしていて、本当にただの立ちくらみだったようだ。
安心すると同時にそれでもやっぱりさっきの真っ白な顔が脳裏に焼き付いて、俺の心には言葉に言い表せないもやもやが残った。
なんだろう。
嫌な予感がする。
季節が巡っても俺は変わらず、実らない恋の果実を抱えたままあの店に通っている。
「また痩せた?」
「え?そうかな」
俺たちの関係で変わったことといえば、敬語が外れたことくらい。
「店忙しいからってご飯はちゃんと食べなあかんで」
「お母さんみたい、壱馬くん」
店に誰もいないのをいいことに、ももは俺の前に座ってケラケラ笑う。
そんなささやかなひとときと一緒に食べるケーキが、最近の俺の楽しみだった
「ていうか壱馬くんだって、ケーキばっか食べてたら太っちゃうよ?アーティストなのに」
「俺はええねん。ちゃんとジムでカロリー消費してるから」
「え〜私もジム通いしようかな」
ももは自分の分のハーブティーをこくりと飲んだ。
白い喉が上下に動くのを視界の端で眺めながら、俺は何気ないふうを装って尋ねてみる。
「北人のどこが好きなん?」
「…急だね。そうだな…いっぱいあるけど、でもいちばんは笑顔が好き」
「顔やん」
「違うよ。笑った時に、あぁこの人絶対すてきだなっていうのがこう、滲み出てるというか。優しく笑ってくれるの」
そこが、好き。
秋の蜜色の日差しに照らされて、ももははにかむ。
君のぜんぶは、あまいものでできている。包み込むような優しい性格も、涼やかなその声も、紡ぎだす言葉も。
「私、いますごく幸せ。壱馬くんのおかげ。本当にありがとう」
あまいはずなのに、俺はそんな君を見ているとなぜだか泣きたくなってしまうのだ。
どうして好きになってしまったのだろう。
君がしあわせを浮かべて話すのは北人を想って話す時だけ。俺じゃだめなんだ。
でも。
俺の忙しさで色彩を感じる間もなかった毎日が輝きはじめたのは、君のおかげだから。
君がいなくなってしまったら、俺の日常はまた無味乾燥な日々に戻ってしまう。
だから俺は、今日も精一杯の笑顔を返すんだ。
「これからも、お幸せにな」
「ありがとう……さて、仕事しなきゃ」
ももは空になったハーブティーのマグを持って立ち上がる。
ガシャン
立ち上がったとたん、ももの身体がぐらりと揺れたと思ったら、その手からマグが滑り落ちた。
テーブルに手をついたため倒れることはなかったが、顔が真っ白だ。
「もも!?大丈夫!?」
「う……うん、ごめん大丈夫。立ちくらみ」
ももはしばらく苦しげに目を瞑っていた。
今までそんなことなかったのに。
不安にかられた俺は、ももの肩を支える。
折れてしまいそうなほど、細い肩だった。
「ごめんね、ありがとう。やっぱり栄養足りてないのかな、あはは」
「絶対そうやで。いっかい病院行った方がええんとちゃう?」
「前に行ったんだけどね、別に大丈夫だって言われて。ていうかコップ割っちゃった…触らないでね、手切れちゃう。今箒持ってくるから」
「俺やろか?」
「ううん、大丈夫。座ってて」
そう言って店の奥へ引っ込むももの足取りはしっかりとしていて、本当にただの立ちくらみだったようだ。
安心すると同時にそれでもやっぱりさっきの真っ白な顔が脳裏に焼き付いて、俺の心には言葉に言い表せないもやもやが残った。
なんだろう。
嫌な予感がする。