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「あ、壱馬さん。いらっしゃいませ」
「こんちわ」
ショーケースの向こうで、今日も彼女は笑っている。
あれから俺は頻繁にここに通うようになった。彼女とは顔見知りになれたし、プライベートな話もちょっとずつするように。
俺と同じ21歳で、東京出身。名前はもも。ここの店長。
店長といってもここで働いているのはももだけらしいけど。
「あ、新作」
「そうなんです!もうすぐ春なので桜をイメージして、さくらんぼも乗せてみました。北人さんも前に食べていかれて、美味しいって言ってくださいましたよ」
一瞬俺の動きが止まる。
「北人が、」
「はい」
そうだ。最近北人の口からここの店の名前を聞くことが多くなった。
…いやまさか。
そんな漫画みたいな話。
俺は自分の馬鹿げた考えを頭から締め出して、さくら色のケーキを指さす。
「じゃあ、俺もこれでお願いします」
「かしこまりました。店内で召し上がっていきますか?」
「はい。ブラックコーヒーで」
この店はちょっとしたカフェスペースみたいなところがあって、ケーキと一緒にドリンクもオーダーできるようになっている。
あまり人も多くないから落ち着くし、窓からは目黒川のまだ咲き始めだが、桜が見えることもあって俺のお気に入りの場所だった。
俺がブラックコーヒーを注文した途端、ももはぷくりとマシュマロのような頬を膨らませる。
そんな仕草ひとつひとつで、どんどん好きの深みにはまってしまうのに。
そのことに、この人はまだ気づいていない。
「あ、またコーヒーですか?ケーキにいちばん合うのは紅茶なんですよ!」
「俺がここのケーキにいちばん合うのはコーヒーやと思うから、コーヒーでいいんです」
「強情だなぁ」
ももはショーケースの後ろのテーブルでコーヒーを煎れながら、「あ、でも」と俺を振り返った。
「確かに壱馬さんに似合うのはコーヒーな気がします。ビターで、男らしくて、力強い。優しくもあり、何者にも屈しない、自分の道がある。そんな感じ」
さっきまで砂糖のあまい香りがふわふわ漂っていた店の中に、コーヒーの深い香りが満ちていく。
それを吸い込んでみて、やっぱり紅茶にすればよかったかもしれないと思った。
だって、君のこんななんでもない言葉で、俺のバカ正直な恋心はあつくなってしまうのだから。
「…ももさんは俺のことそんなカッコイイ男だと思ってくれてたんすね」
「あ、勝手に変なこと言ってすみません!壱馬さんや北人さんがここに来て下さるようになってから、私THE RAMPAGEのこと色々調べたんです。そしたら壱馬さんはセンターボーカルで、ラップも歌もお上手で、MVもかっこよかったから。だからそういうひとなのかなって勝手に思ってたんです。気を悪くされたならすみません」
ももはコーヒーのマグとケーキの乗った皿をテーブルにそっと置いて、申し訳なさそうに眉を下げた。
本当に表情がころころ変わるひとだ。
俺は自然と自分の口角が上がるのを感じながら、片恋のひとを見上げた。
「いえ。嬉しいです」
春の足音が聞こえてきそうなこの時期にぴったりの、ホットコーヒー。
足音よりも少しはやく訪れた、さくら色の小さなケーキ。
それから、満開のさくらのように匂いたつ君の笑顔。
君は、かけあしの春の使者だ。
「ん、これすげーうまい。甘さがしつこくなくて」
「ふふ、よかったです……あの、壱馬さん」
「ん?」
テーブルのそばに立つももは、何か思い詰めているような、そんな表情を浮かべていた。
どうしたのだろう。
「聞いていただきたいことがあるんですけど…」
「こんちわ」
ショーケースの向こうで、今日も彼女は笑っている。
あれから俺は頻繁にここに通うようになった。彼女とは顔見知りになれたし、プライベートな話もちょっとずつするように。
俺と同じ21歳で、東京出身。名前はもも。ここの店長。
店長といってもここで働いているのはももだけらしいけど。
「あ、新作」
「そうなんです!もうすぐ春なので桜をイメージして、さくらんぼも乗せてみました。北人さんも前に食べていかれて、美味しいって言ってくださいましたよ」
一瞬俺の動きが止まる。
「北人が、」
「はい」
そうだ。最近北人の口からここの店の名前を聞くことが多くなった。
…いやまさか。
そんな漫画みたいな話。
俺は自分の馬鹿げた考えを頭から締め出して、さくら色のケーキを指さす。
「じゃあ、俺もこれでお願いします」
「かしこまりました。店内で召し上がっていきますか?」
「はい。ブラックコーヒーで」
この店はちょっとしたカフェスペースみたいなところがあって、ケーキと一緒にドリンクもオーダーできるようになっている。
あまり人も多くないから落ち着くし、窓からは目黒川のまだ咲き始めだが、桜が見えることもあって俺のお気に入りの場所だった。
俺がブラックコーヒーを注文した途端、ももはぷくりとマシュマロのような頬を膨らませる。
そんな仕草ひとつひとつで、どんどん好きの深みにはまってしまうのに。
そのことに、この人はまだ気づいていない。
「あ、またコーヒーですか?ケーキにいちばん合うのは紅茶なんですよ!」
「俺がここのケーキにいちばん合うのはコーヒーやと思うから、コーヒーでいいんです」
「強情だなぁ」
ももはショーケースの後ろのテーブルでコーヒーを煎れながら、「あ、でも」と俺を振り返った。
「確かに壱馬さんに似合うのはコーヒーな気がします。ビターで、男らしくて、力強い。優しくもあり、何者にも屈しない、自分の道がある。そんな感じ」
さっきまで砂糖のあまい香りがふわふわ漂っていた店の中に、コーヒーの深い香りが満ちていく。
それを吸い込んでみて、やっぱり紅茶にすればよかったかもしれないと思った。
だって、君のこんななんでもない言葉で、俺のバカ正直な恋心はあつくなってしまうのだから。
「…ももさんは俺のことそんなカッコイイ男だと思ってくれてたんすね」
「あ、勝手に変なこと言ってすみません!壱馬さんや北人さんがここに来て下さるようになってから、私THE RAMPAGEのこと色々調べたんです。そしたら壱馬さんはセンターボーカルで、ラップも歌もお上手で、MVもかっこよかったから。だからそういうひとなのかなって勝手に思ってたんです。気を悪くされたならすみません」
ももはコーヒーのマグとケーキの乗った皿をテーブルにそっと置いて、申し訳なさそうに眉を下げた。
本当に表情がころころ変わるひとだ。
俺は自然と自分の口角が上がるのを感じながら、片恋のひとを見上げた。
「いえ。嬉しいです」
春の足音が聞こえてきそうなこの時期にぴったりの、ホットコーヒー。
足音よりも少しはやく訪れた、さくら色の小さなケーキ。
それから、満開のさくらのように匂いたつ君の笑顔。
君は、かけあしの春の使者だ。
「ん、これすげーうまい。甘さがしつこくなくて」
「ふふ、よかったです……あの、壱馬さん」
「ん?」
テーブルのそばに立つももは、何か思い詰めているような、そんな表情を浮かべていた。
どうしたのだろう。
「聞いていただきたいことがあるんですけど…」