｢ごめんなさい｣

優しい君は、瞳いっぱいに涙を浮かべながら、でも決然としてそう告げた。

｢できないよ｣

ふるふると、首を横に振る。長い髪が夕日に照らされてきらきらと光った。

｢それをしても、つらいのは壱馬くんだから｣

あぁ、どこまでも優しくて、あまい俺の想いびと。

｢私は…壱馬くんのこと、すごく尊敬してる。いつも飲んでるコーヒーみたいに優しくて強くて、同い歳と思えないくらい大人っぽくて、だから色々と相談してた。でも…｣

ももの大きな瞳に涙の膜が張る。
でも、彼女は泣かなかった。
そういう優しいところを、俺は好きになったんだ。

｢ごめん。私、壱馬くんをいっぱい傷つけた。今も…壱馬くんの想いには応えられない｣

ももは、俺の限界まで膨れ上がった恋心がハグひとつなんかじゃ満足できないことを分かっているんだ。
始まった瞬間に、俺はきっと際限なく求めてしまう。
もう止められないから。

｢壱馬くんを、これ以上傷つけたくない｣

君が優しいだけじゃないってこと、はじめて知った。
優しく、強く、あまいひと。

｢だから……さよなら、壱馬くん。ありがとう｣

ももは有り余るほどの優しさを残して、公園を去っていった。
あぁ、どうして泣けないんだろう。
泣くことができればすこしは楽になれるのに。彼女が流せなかったぶんの涙も、俺が流せたらきっともっと楽になれるのに。
遠ざかっていくももの背中を見つめながら、俺は動くこともできず、その場に立ち尽くしていた。
それが、俺が生きているももを見た最後の日だった。