世界一幸せな朝に、世界一美味しい朝食を
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「慎、まこと。朝ごはんできたよ。コーヒーでいいよね」
「ん……もうちょっと…」
寝室を覗くと、慎は素肌のままシーツの海で溺れていた。
こういう所を見ていると、あぁ年下なんだなぁと思う。朝に弱いところとか、たまに甘えてくるところとか。
たまらなく可愛くて、愛おしい。
仕事の時間まではまだ余裕がある。今日は午後からリハーサルで、その後にメンバー全員の取材だ。
ワガママな年下くんは、まだ寝かせておいてあげるとしよう。
「じゃあ30分後に起こしにくるから」
あまあまに甘い声で告げると、慎は手を軽く上げてそれに答えた。
私はひとり朝日が斜めに差し込んで蜜色にひかるリビングに戻る。
こんな、なんでもない日常が幸せだと思えるのだ。恋の力は偉大だとつくづく思う。
同じグループのメンバー、アーティスト、芸能人。たとえ周囲の目を常に気にしなければならない密やかな恋でも、神様は平等に幸せをくれる。
ただ、そのことに堂々と胸を張れないのが辛かった。
明確なかたちを持たない、いや、持てない。私たちのこの関係。
私はそれでもいいと思っているけれど、やはり街を歩く普通の恋人たちを見ているとすこし切なくなる。
「…いやいや」
何を朝からセンチメンタルになっているんだ。
いま、この瞬間の幸せに浸って生きていけばいいじゃないか。
私は自分にそう言い聞かせてキッチンに立ち、コーヒーを淹れようとする。
その時だった。
「…まみさん」
ふいに、寝室で寝ていたはずの慎が私を後ろからふわりと包み込んだ。
「慎?なんだ、寝てたんじゃないの?」
「あのベッドは、俺ひとりが寝るにはちょっと大きすぎるんで」
私の腹のあたりに優しく腕を回して、慎は耳元で囁いた。
ぴったりとくっついた背中から、慎の温もりが伝わってくる。私の肩におでこをぐりぐりするその仕草はまるで大きな猫のようだ。
あぁ幸せだ、そう思った。
別に愛のかたちなんて必要ないじゃないか、そう思う。
私には慎がいれば、それでいい。
こんなに素敵な恋人がいて、ささやかで幸福に包まれた朝があって、甘やかな睦言を囁きあって。
それ以上何を望む?
「そんなにくっついてたらコーヒー入れられないよ」
「んんー」
「今日は甘えたさんだなぁ」
私はコーヒーマグを1度置いて、ふふ、と笑った。
腹に巻き付けられた腕にそっと触れる。
「あったかい」
「まみさんもあったかいです」
慎が顔を上げたのが分かった。そして後ろから私の左手をとる。
しゅる
「…え?」
気がついた時には、私の左手の薬指に銀色にひかる指輪がはまっていた。
朝日の金色と融けて、不思議な色に煌めく、
愛のかたち。
「これ、あげます」
私の肩に顎を乗せて、慎があまいあまい、あまい声で囁いた。
「俺とお揃い」
「え、」
重ねた手と手。私よりもひと回り大きなそこには、私のものと同じ指輪が同じ場所に輝いている。
慎に触れている場所からじわじわと熱が広がっていく。
その熱が私の心に辿り着いて、ぽうっとやわらかい火をつける。
「まこ、と……これって」
「別に、ただの指輪です。俺とお揃いで、左手の薬指についてるだけの、ただの指輪」
私は慎の顔が見たくて、寝起きのぼさぼさ頭で半分しか開いていない目の奥の、心を見たくて。
振り返る。
やわらかい金色の朝日に照らされて、慎は笑っていた。
笑っていた。
「世間は、俺たちの関係を認めてはくれないかもしれない。でも、そんなの関係ないんです。この指輪だって、かたちだけ。明確な輪郭も、名前だっていりません」
慎は私の手を取った。
「俺は、ただ、まみさんの隣にいられれば。それだけでいいんです」
心に灯った炎が私の裡を温めていく。
じわじわと、慎の輪郭が滲んでいく。
「…泣いてるんですか?」
「泣いてない」
「いや、目ぇうるうるしてますけど」
「見んな」
「んむ、」
私は口の減らない恋人の唇を自分のそれで塞いだ。
やわく食むようなキス。
数秒後、くちびるを離す。
私の瞳から落ちた涙が、慎の手の甲を濡らした。
「…やっぱり泣いてるじゃないですか」
「慎が悪い」
「ふふ、はいはい」
慎の顎の下に頭を突っ込んで、ぎゅっと抱きついた。
自然な動きで慎の腕が背中に周り、あぁこのひとが私の恋人なのだと今更ながら、でも今だからこそ実感できる。
「まこと、」
「はい」
「私の隣にいてくれて、本当にありがとう」
心の底から幸せだと思った。
世間が何だ。周りの目が何だ。
私と、私の愛しいひとが、こんなにも幸せな朝を迎えられるなら。
それで充分、この世界は生きていくに足りうる。
「俺も…ありがとうございます。俺の隣にいてくれて。俺は幸せ者です」
「ふふ、私も幸せ」
慎の胸元にぎゅっと顔をよせて、肺いっぱいに慎の匂いを吸い込んだ。
シャンプーと、汗と、朝焼けと、コーヒーの匂い。
…あぁそうだ。コーヒーを淹れている最中だった。
「…さ、朝ごはん食べよ。コーヒーあっためなおすね」
「俺も手伝います」
「ありがと、じゃありんご剥いて」
「はい」
私は慎の隣に立って朝食の準備を再開する。
世界一幸せな朝に相応しい、世界一美味しい朝食を。
「ん……もうちょっと…」
寝室を覗くと、慎は素肌のままシーツの海で溺れていた。
こういう所を見ていると、あぁ年下なんだなぁと思う。朝に弱いところとか、たまに甘えてくるところとか。
たまらなく可愛くて、愛おしい。
仕事の時間まではまだ余裕がある。今日は午後からリハーサルで、その後にメンバー全員の取材だ。
ワガママな年下くんは、まだ寝かせておいてあげるとしよう。
「じゃあ30分後に起こしにくるから」
あまあまに甘い声で告げると、慎は手を軽く上げてそれに答えた。
私はひとり朝日が斜めに差し込んで蜜色にひかるリビングに戻る。
こんな、なんでもない日常が幸せだと思えるのだ。恋の力は偉大だとつくづく思う。
同じグループのメンバー、アーティスト、芸能人。たとえ周囲の目を常に気にしなければならない密やかな恋でも、神様は平等に幸せをくれる。
ただ、そのことに堂々と胸を張れないのが辛かった。
明確なかたちを持たない、いや、持てない。私たちのこの関係。
私はそれでもいいと思っているけれど、やはり街を歩く普通の恋人たちを見ているとすこし切なくなる。
「…いやいや」
何を朝からセンチメンタルになっているんだ。
いま、この瞬間の幸せに浸って生きていけばいいじゃないか。
私は自分にそう言い聞かせてキッチンに立ち、コーヒーを淹れようとする。
その時だった。
「…まみさん」
ふいに、寝室で寝ていたはずの慎が私を後ろからふわりと包み込んだ。
「慎?なんだ、寝てたんじゃないの?」
「あのベッドは、俺ひとりが寝るにはちょっと大きすぎるんで」
私の腹のあたりに優しく腕を回して、慎は耳元で囁いた。
ぴったりとくっついた背中から、慎の温もりが伝わってくる。私の肩におでこをぐりぐりするその仕草はまるで大きな猫のようだ。
あぁ幸せだ、そう思った。
別に愛のかたちなんて必要ないじゃないか、そう思う。
私には慎がいれば、それでいい。
こんなに素敵な恋人がいて、ささやかで幸福に包まれた朝があって、甘やかな睦言を囁きあって。
それ以上何を望む?
「そんなにくっついてたらコーヒー入れられないよ」
「んんー」
「今日は甘えたさんだなぁ」
私はコーヒーマグを1度置いて、ふふ、と笑った。
腹に巻き付けられた腕にそっと触れる。
「あったかい」
「まみさんもあったかいです」
慎が顔を上げたのが分かった。そして後ろから私の左手をとる。
しゅる
「…え?」
気がついた時には、私の左手の薬指に銀色にひかる指輪がはまっていた。
朝日の金色と融けて、不思議な色に煌めく、
愛のかたち。
「これ、あげます」
私の肩に顎を乗せて、慎があまいあまい、あまい声で囁いた。
「俺とお揃い」
「え、」
重ねた手と手。私よりもひと回り大きなそこには、私のものと同じ指輪が同じ場所に輝いている。
慎に触れている場所からじわじわと熱が広がっていく。
その熱が私の心に辿り着いて、ぽうっとやわらかい火をつける。
「まこ、と……これって」
「別に、ただの指輪です。俺とお揃いで、左手の薬指についてるだけの、ただの指輪」
私は慎の顔が見たくて、寝起きのぼさぼさ頭で半分しか開いていない目の奥の、心を見たくて。
振り返る。
やわらかい金色の朝日に照らされて、慎は笑っていた。
笑っていた。
「世間は、俺たちの関係を認めてはくれないかもしれない。でも、そんなの関係ないんです。この指輪だって、かたちだけ。明確な輪郭も、名前だっていりません」
慎は私の手を取った。
「俺は、ただ、まみさんの隣にいられれば。それだけでいいんです」
心に灯った炎が私の裡を温めていく。
じわじわと、慎の輪郭が滲んでいく。
「…泣いてるんですか?」
「泣いてない」
「いや、目ぇうるうるしてますけど」
「見んな」
「んむ、」
私は口の減らない恋人の唇を自分のそれで塞いだ。
やわく食むようなキス。
数秒後、くちびるを離す。
私の瞳から落ちた涙が、慎の手の甲を濡らした。
「…やっぱり泣いてるじゃないですか」
「慎が悪い」
「ふふ、はいはい」
慎の顎の下に頭を突っ込んで、ぎゅっと抱きついた。
自然な動きで慎の腕が背中に周り、あぁこのひとが私の恋人なのだと今更ながら、でも今だからこそ実感できる。
「まこと、」
「はい」
「私の隣にいてくれて、本当にありがとう」
心の底から幸せだと思った。
世間が何だ。周りの目が何だ。
私と、私の愛しいひとが、こんなにも幸せな朝を迎えられるなら。
それで充分、この世界は生きていくに足りうる。
「俺も…ありがとうございます。俺の隣にいてくれて。俺は幸せ者です」
「ふふ、私も幸せ」
慎の胸元にぎゅっと顔をよせて、肺いっぱいに慎の匂いを吸い込んだ。
シャンプーと、汗と、朝焼けと、コーヒーの匂い。
…あぁそうだ。コーヒーを淹れている最中だった。
「…さ、朝ごはん食べよ。コーヒーあっためなおすね」
「俺も手伝います」
「ありがと、じゃありんご剥いて」
「はい」
私は慎の隣に立って朝食の準備を再開する。
世界一幸せな朝に相応しい、世界一美味しい朝食を。
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